第19話 もっと……もっと……激しくしますよ!!

「行ってきます」


 俺は、誰もいない家の玄関でそうつぶやくと、鍵をしめて学校に向かう。

 ベトナムに単身赴任している父さんと、長めに有給を消費してその赴任先に行っている母さんが戻ってくるのは二週間以上も先だ。


 家を出ると、同じく学校に向かう澄香すみかとバッタリと出くわす。


「おはよう」

「ああ、おはよう」


 俺たちは、肩を並べて学校に向かう。でも、


「……………………」

「……………………」


 会話は無い。

 そりゃそうだ。俺は目撃してしまったんだもの。

 昨日、飛び降り自殺した西野にしのにレイプされそうになっている澄香すみかのことを。


「……えっと流斗りゅうと?」

「なに?」


 突然、澄香すみかが声をかけてきた。

 そして俺は、これから澄香すみかが言うことが、なんとなく予想できていた。


「その……昨日、文芸部であったことなんだけど、いぬいくんにはヒミツにしておいてくれないかな……その……心配させたくないから」」

「ああ。わかった。いぬいにはモチロン、他の誰にも言わないよ」

「うん。ありがと……」


 澄香すみかとの会話のやりとりで、予想が確信になる。

 多分、澄香すみか西野にしののヤツにレイプされたんだろう。


 あいつが死ぬ前に、ぶんなぐっといて良かった。

 俺は、ズキズキと痛む腕を軽くなでて、怒りが再燃してくるのを沈めた。


「おはよう! 乙部おとべ壬生みぶ……って、おいおい、どうしたんだ? 大丈夫か!? その右手!!」


 塩顔系イケメンのいぬいは、開口一番、俺のケガを気づかってくれた。

 いいやつだ。俺の友人のいぬいは、本当にいいやつだ。

 さすが、澄香すみかの彼氏だけの事はある。


「あ、いや、バイト中に盛大に転んじまってさ。幸いヒビが入るだけで済んだけど」

「そうかー。そいつは災難だったな」

「全治一か月。おかげでそれまでバイトは禁止だよ」

「ってことは、しばらくヒマってことだな?」

「ん? まあヒマって言えばヒマだな」


 一応、レヴィアたんのペットとして連れまわされるのと、夜の御奉仕デザートはあるけれど、現れるのは完全にレヴィアたん都合だ。俺がコントロールできる用事じゃない。


「なるほど、なるほど……だったら、是非ともお願いしたいことがあるんだが……」


 いぬいのメガネがキラリと光る。


 ・

 ・

 ・


「あ! え! い! う! え! お! あ! お!」

「「あ! え! い! う! え! お! あ! お!」」


「あめんぼあかいなあいうえお!」

「「あめんぼあかいなあいうえお!」」

 

 放課後、俺は体操服を着て、三階の空き教室にいた。

 空き教室を利用している演劇部の部室で、クラスで一番の美少女で、演劇部の部長の黒沢くろさわ雪奈ゆきなの発声練習を復唱する。


「かきのきくりのきかきくけこ!」

「「かきのきくりのきかきくけこ!」」


「ささげにすしをかけさしすせそ!」

「「ささげにすしをかけさしすせそ!」」


 ・

 ・

 ・


「演劇部に頼まれて、シナリオを書いたんだけどさ、どうしてもひとり、配役が足りないんだよな」

「俺、演劇なんてやったことないぞ!!」

「大丈夫! なぜならお前にやってもらいたい役どころは、お前をモデルにしたからな。『当て書き』ってやつだ」

「俺がモデル?? ってそれ、最初から俺にヘルプを頼む予定だったんじゃないのか?」

「バレたか!! バイトがないなら頼みやすくなったよ!

 頼む、壬生みぶ! 文芸部、そして演劇部存続のために!!」


 ・

 ・

 ・


「わいわいわっしょいわゐうゑを!」

「「わいわいわっしょいわゐうゑを!」」


「うえきやいどがえおまつりだ!」

「「うえきやいどがえおまつりだ!」」


「はーい、発声練習終わり! 次、柔軟!! 二人一組になって!」


 演劇部の部長でクラスで一番の美少女、黒沢くろさわ雪奈ゆきなが声を張り上げる。


 うん。なんだかよくわかんないまま成り行きで演劇部にレンタル入部することになってしまった。


 なんで俺が?


 って気もするけど、ホンネを言ってしまうと悪い気はしなかった。


壬生みぶセンバイ! 柔軟、アタシと組んでくれますか?」


 今年唯一の新入部員、一年の辰巳たつみほのかが、体操服にハーフパンツ姿ので、頬を赤らめながら話しかけてくる。


「え? うん、別にいいけど」


 おれは、勤めて平静をよそおって、辰巳たつみちゃんに返事をする。


「やったぁ! よろしくおねがいしますね、センパイ♪」


 辰巳たつみちゃんは、まるで花が咲いたようにほほえんだ。

 うん。これ、確変来たんじゃない?? 青春リーチ来たんじゃない??

 

「ほのか! 新入部員を思いっきり可愛がってあげなさい!」


 黒沢くろさわ雪奈ゆきなが、なんだか物騒なことをいっている。そして、


「わかりました!!」


 辰巳たつみちゃんは、リスのようにくりくりとした瞳を細めて微笑んだ。


 ・

 ・

 ・


「た、辰巳たつみちゃん!!

 もうちょっと、優しく、い、イタイ、腰が、腰が壊れる!!」

「あはは♪ もう! だらしないですよ、センパイ!」


 俺は、辰巳たつみちゃんに両腕でグイグイと背中を押さえつけられている。

 でも、カチンコチンの俺の身体はこれ以上曲がる気配はない。


「ほのか! まだまだ甘いよ! もっともっと痛めつけてあげなさい!」


 部長の黒沢くろさわが、血も涙のないことを言う。

 コイツ、絶対にドSだ。生粋のドS気質の女王様だ。


「はーい!!」


 ドS気質の女王様に命令された辰巳たつみちゃんは、俺に身体をピッタリと密着させると、俺の背中に全体重を乗せてきた。

 辰巳たつみちゃんの控え目なおっぱいが、体操服越しにつぶれているのがわかる。そして、


「はぁはぁ……頑張ってください……センパイ!!

 もっと……もっと……激しくしますよ!!」


 辰巳たつみちゃんの息遣いが、俺の耳元で聞こえてくる。

 そのなまめかしい息づかいに、俺のここには書いてはよろしくない所はカチンコチンにしてしまっていた。


 

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