第2話 彼氏が現れて修羅場に突入しました。

 俺、セックスをしてしまった。童貞を卒業してしまった。しかも、人気絶頂のアイドル、彼女にしたい芸能人三年連続No.1の、春日井かすがいゆみとだ。


「……うん……」


 春日井かすがいゆみは、俺とつながっている部分を、なまめかしい腰つきでひきぬいた。


「あっ……あっ……」


 俺は、思わず声がもれる。


 とっても敏感になっている俺のここには書いてはよろしくないところを、春日井かすがいゆみが、口にくわえて丁寧におそうじしているからだ。


「ぷはっ……、うふふ、かわいい」


 春日井かすがいゆみは、意地悪そうに微笑むと、素っ裸のまま、俺がかついできたフードデリバリーのリュックの中から、スムージーを取り出す。

 そして、ストローをプスリと刺すと、高層マンションから広がる絶景を眺めながら、スムージーをちゅうちゅうと飲み出した。


「うん、美味しい! やっぱりはげしく運動した後はスムージーが一番ね!

 あ、君も飲む?」


 俺は言われるがまま、春日井かすがいゆみが口をつけたスムージーを飲んだ。

 あ、これって、関節キスだ。ちょっと恥ずかしい……って、ついさっきまでもっと恥ずかしいことをしていたんだけど。


「ねえ君、名前は?」

「み、壬生みぶ流斗りゅうとです」

「じゃ、りゅーちゃんだね」

「わたしは、春日井ゆみ。知ってる?」

「は、はい! もちろん!!」


 俺たちは今更ながら、自己紹介をすます。


「ねぇ、りゅーちゃん。今日はこのあとヒマ?」

「え? あ、はい特に予定はないですけど」

「そっか……だったらぁ……もう一回戦いっとく?」


 その言葉に、俺のここには書いてはよろしくないところが、むくりと起き上がっていく。


「あはは、カワイイ。じゃあ、こっちのスムージーもおかわりしちゃおっかな」


 そう言って、春日井ゆみが俺のスムージーをほうばった瞬間だった。


「おい、誰だテメエ!!」


 突然、ガラの悪い真っ赤なシャツを着た男が入ってきた。

 チケット販売がファンクラブ会員限定の抽選制のために、全国ドームツアーコンサートのチケットがなかなか取れないことで有名な、大人気アイドルグループのセンターをつとめる、飛山ひやま炎児えんじだ。


「テメエ、俺の女を寝取りやがったな!!」


 俺の女、寝取り? え? どういうこと。

 ってことは、飛山ひやま炎児えんじ春日井かすがいゆみは。付き合っているってこと?


 とんでもない大スクープだ!!


「なんとか言えよテメエ!」


 でも、飛山ひやま炎児えんじ、随分とオラついているキャラだな、テレビじゃ品行方正な王子様キャラで通っているのに。


「無視かよ、殺すぞテメエ!!」


 って! それどころじゃない!! そんなのんきなことを考えている場合じゃない。これって絶賛修羅場ってやつじゃないかな?


 俺、ヤバいんじゃないかな?

 とりあえず、ことの経緯を説明するべきじゃないのかな? 


「あ、あの、えーっと……ええーーー!?」


 俺が、しどろもどろに説明をはじめたときだった。飛山ひやま炎児えんじの後ろに、ちょっと信じられない光景を見てしまった。


「ああん? テメエ、なにスッとボケてんだ!!」


 人が、浮いている。

 炎天下の中倒れていたおねーさんがフワフワと浮いている。


 え? どういうこと??


 フワフワと宙にういたおねーさんは、手の甲で「しゅるん」と口をひとふきすると、とんでもないことを言い放った。


「わぁ! 美味しそうな嫉妬♪」


 すると、おねーさんの、背中、いや腰の近くまである青みががった長髪が、しゅるしゅると伸びて飛山ひやま炎児えんじの体にからまっていく。


 え? なんで気が付かないの、身体中に髪がからみついているのに……。


「………………………………!!

 ………………………………!!」


 あまりの異常事態に、俺は、飛山ひやま炎児えんじの怒号なんて、まったく聞こえなくなっていた。


 代わりに、おねーさんがとんでもない言葉が部屋の中にひびきわたる。


「いっただっきまーーーーーす♪」


 おねーさんの食事のご挨拶と共に、飛山ひやま炎児えんじの体が白く鈍く、濁った色で発光した。そして、


 どぷん。どくどくどく……ごぷぅ!!


 濁った光は、おねーさんの髪を伝って搾り取られて、ぽっかりと大きく開けたおねーさんの口の中に運び込まれる。

 おねーさんは、その白濁とした光を口の中で転がして、たっぷりと、ねっとりと、味わった後「ごくん!」とのみほした。


 白濁した発光体をおねーさんに搾り取られた飛山ひやま炎児えんじは、瞳孔をグルンと上に向けて白目になると、そのままうつ伏せにバタンと倒れた。


「え! えんちゃん!! どうしたの!?」


 俺に抱きついていた春日井かすがいゆみが、大慌てで飛山ひやま炎児えんじに駆け寄っていく。


「どうしよう……そうだ救急車!」


 春日井かすがいゆみは、大慌てでベッドの横のローテーブルに置いてあるスマホを取って電話をかける。


 でも。


 俺は、その奥で満足げにお腹をさすっているおねーさんに目が釘付けになっていた。なんだか身体……というか、おっぱいがしぼんでしまったように見える。太ももの付け根が見えてしまいそうなギリギリのスレスレのスカート丈も、いたってフツーの膝上丈になっていた。


 ひょっとして……若返ってる?


「ふー。ごちそうさまでしたー」


 おねーさん(いや、もう既に俺と同い年くらいに見える)は、パンと両手を合わせて食後のご挨拶をすると、そのまま「フッ」と消えてしまった。


「えんちゃん!! えんちゃん!!

 大丈夫? 大丈夫?? しっかりして!!」


 春日井かすがいゆみは、俺のことなんかまるっきり無視をして、飛山ひやま炎児えんじの看病にかかりっきりだ。


 ……帰ろう。


 俺は、のろのろと服を着て、のろのろとフードデリバリーのリュックを背負って、春日井かすがいゆみに声をかけた。


「それじゃ、俺帰ります」


 春日井かすがいゆみは、声をかけられてハッとする。完全に俺のことなんか見えていなかったみたいだ。


「あ、あの……」

「なんでしょう?」

「今日のことは、絶対に誰にも言わないで。お願い!」

「……わかりました。それじゃ」


 俺は、春日井かすがいゆみの部屋を出て、エレベーターに乗って一階まで降りると、そのままタワーマンションを出て、マウンテンバイクにまだがるとキコキコと家路にむかった。


 本当に……なんだったんだ?

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