第10話 その『本気』がうすっぺらいの。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……」
「う! ううぅぅ!」
やることをやった俺とサッキュバスのリリアの荒い息と、手足をしばられ、レヴィアたんの下敷きになっている茶髪ヤンキーの嗚咽がシンクロする。
「ちくしょう! ちくしょう!
てめえ! 長すぎなんだよ! サイズも持久力もよおおおおぉ!」
そ、そう?? 俺は、いたって平均的だと思うけど……?
「あんたが短すぎるだけでしょう!!」
「そんなぁ! ヒドイ!!」
レヴィアたんは、心では思っていたけれど、俺が絶対に口にできないことを、サラリと言ってのける。
「はぁはぁはぁ……最後に、こんなステキな快感を味わえるなんて……」
俺の身体の上でつながったままぐったりとしている、リリアの瞳から一滴の涙がつたう。
「お別れだね……
「は? お、お別れって……なんだよ?」
リリアは白い光につつまれた。魔界に強制送還されるんだ。
「リリアね、海外留学で来たって言っていたけど、アレはウソ。本当は
「は? リリア、何言ってんだ? 犯されて気でも触れたか??」
金髪ヤンキーがうろたえる。そりゃそうだ。自分の彼女が光って、うっすらと透け始めて、あまつさえ悪魔だなんて言い始めてるんだもの。
「人間界に初めてきた日、リリアはね、恋に落ちたの。
ガード下でギター一本で歌うあなたに恋に落ちたの。
リリアはね、
リリアの身体がさらに透けていく。
「でも……もう聞けなくなっちゃうね。リリアは、魔界に帰らなきゃ……」
「歌ならいくらでも歌ってやるよ! だからさ、もう変なこと言うのやめろよ」
「…………」
「なぁ、リリア、冗談だんだろ? ドッキリなんだろ? な? な!」
リリアは、俺の上でつながったまま、どんどんと薄く、透明になっていく。
「えへへ、今までドジばっかりでゴメンね」
「そんなことない! そんなことない!! 俺がクズだったばっかりに……お前に迷惑ばかりかけちまって……ううう……」
金髪ヤンキーの
この人、本当にリリアのことが大好きなんだ。別れるのがいやなんだ。
リリアは、涙をながしながら話をつづける。
「唯一の心残りは、初めてひとつになれた夜、
「ああ、創るよ! その曲でメジャーデビューする!!」
「えへへ、約束だよ……」
「ああ……約束だ! ビックウエーブを起こしてやる!!」
茶髪ヤンキーは、滝のように涙を流しながら、なんどもなんどもうなづいた。
「それじゃあ、そろそろ迎えが来たから、行くね。
さようなら
そう、言い残すとリリアは泡になって消え去った。
「リリア、俺、やるぜ!! 絶対ビックになってやる!
お前との約束を果たしていつか武道館で……」
「はい! そこまでー! もう待ちくたびれちゃった♪」
そう言うと、レヴィアたんの青みがかった髪の毛が、茶髪ヤンキーの全身にまとわりつく。
「いっただっきまーす♪」
レヴィアたんの食事のご挨拶と共に、茶髪ヤンキーの体が白く鈍く、濁った色で発光する。
どぷん。どくどくどく……ごぷぅ!!
濁った光は、青みがかった髪を伝って搾り取られて、ぽっかりと大きく開けたレヴィアたんの口の中に運び込まれていく。
レヴィアたんは、その白濁とした光を口の中で転がして、ちょっと首をひねりながら味わった後「ごくん!」とのみほした。
白濁した発光体をレヴィアたんに搾り取られた茶髪ヤンキーは、瞳孔をグルンと上に向けて白目になると、そのままうつ伏せにバタンと倒れた。
「はぁ。ごちそうさまでしたー」
レヴィアたんは、けだるそうに食事のご挨拶をする。そして、嫉妬を食べたレヴィアたんの身体は……あれ?
全然かわっていない。小学生三年生くらいのままだ。
「はぁー。やっぱり、こんなもんよねー。
完全な魔力の無駄遣いだよー。ホンっと、馬鹿なサキュバス……」
レヴィアたんは、げんなりとした顔でブツブツとつぶやいている。
え? どういうこと??
「たいした嫉妬じゃなかったってことー」
俺の思考を読み取ったレヴィアたんがめんどくさそうに返事をする。
俺はさらに質問をした。
「この男がリリアのことを好きって言っていたのは、ウソだったってこと?
とてもウソをついているようには思えなかったけど?」
「ウソはついてないよ。涙も嫉妬も本気も本気、大真面目だったよー。
でもね、その本気がうすっぺらいの」
「うすっぺらい?」
「そ、うすっぺらい」
レヴィアたんは話をつづける。
「嫉妬ってのはね、使いようによっては大きな原動力になる。
本気の嫉妬ってのは、スゴイんだよ。
嫉妬が狂気を帯びた執念にかわって、何かを成し遂げる途方もない原動力になる。
そんな嫉妬を食べた時は、全身がぞくぞくしちゃう♪」
レヴィアたんは、右手の親指と人差し指で、まるでちっちゃな虫を捕まえるようなジェスチャーをしながら話を続ける。
「でもね、こいつの本気は、本っっっっっっっ当に薄っぺらいの!
薄い本……いやコピー本以下だね!!
きっとひと月もしないうちに、リリアのことなんてスッカリ忘れて他の女の家に転がり込んでるだろうよー」
レヴィアたんは、ため息をつきながら、白目を剥いて気絶している茶髪ヤンキーを見た。その眼は、哀れみに満ち溢れていた。
俺は、何か言いたかった。でも、何も出てこない。
そして考えた。俺は、本気になれるものなんてあるんだろうか……?
「あ! ちなみに
「べ、別にい、いいだろう!
今はもう、心の整理は出来てるし!」
「うふふ。そーだったね。
「ああ、そうだ。未練なんて露ほど無いよ!」
「だよねだよねー。
だってその嫉妬は、わたしが跡形もなく食べちゃったんだもん♪」
ぞくり。
俺は、恐怖した。
舌を「ぺろりん」と出して無邪気に笑っている、嫉妬の悪魔に心の底から恐怖した。
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