第12話 恋の苦しみ
家に入ると、雪乃はため息をついた。
「あら、雪乃さんおかえりなさい。どうしたの?ため息なんてついて。今日は、桜葉さんとお出掛けしてたんじゃないの?」
清香が雪乃に近付いた。
雪乃は清香に抱き付く
「お母様。私、変なんです。司さんと一緒に居ると嬉しくてドキドキするんですけど、時々心臓が痛くなるんです。切なくて泣きたくなるんです。」
清香は優しく雪乃を抱き締めた。
「雪乃さん。それは、全然おかしいことないわ。恋ってねドキドキしたり、嬉しかったりばかりじゃないのよ?」
「えっ?そうなんですか?」
雪乃は清香を見つめた。
「そうよ。その人の事を考えると心臓が痛くなって切なくなるの。それも・・・恋をしているからなのよ?」
「・・・お母様もそうだった?」
「えぇ・・。」
清香は何かを言いたげだった。
「雪乃さん。今日は疲れたでしょう?お風呂に入ってゆっくりしなさい。」
「はい。お母様。」
一方、その頃葵は深雪が訪れていたバーに居た。
カウンターでカクテルを飲みながら視線を向けたのは深雪と一緒に居た男達だった。
「もうそろそろ良いんじゃないですか?」
「何か、あんまり効果が無いみたいですよね?」
「俺達にとっちゃ、効果が有ろうが無かろうが関係無いけどなぁ~。」
男達は口々に言いたい放題だった。
「そうだな。もういいだろ。近々実行するぞ。」
リーダー格の男が言うと、取り巻きの男達が視線を合わせた。
「・・・・。」
それから暫く男達は酒を飲んでいたが、リーダー格の男が帰ると取り巻きの男達も帰っていった。
(解散・・か。私も帰ろう。)
そう思っていると、一人の男が葵に声を掛けてきた。
「おねーさん。ずっと一人で飲んでるけど、彼氏にでもフラれちゃった?」
ちらりと男を見ると、取り巻きの一人だった。
「・・・。そうなの。フラれちゃってやけ酒してたのよ。」
「こぉーんな美人フルなんて勿体ねぇーな!なら俺と飲もうよ。」
「ふふっ。良いわよ。場所変えてユックリしましょ。」
葵が笑顔を向けると、男は下心丸出しの下品な笑みを浮かべた。
二人でバーを後にすると男は葵の腰に手を回してきた。
「へへっ、こんな美人に相手して貰えるなんてラッキー。」
「・・・・。」
数十分後。
二人は人気の無い路地裏に居た。
葵が男の首に腕を回すと男の顔が近付いてきた。
唇が触れそうになった瞬間、男は葵の足元に倒れ込んで気を失ってしまった。
「情報をありがとう。おにーさんっ!」
********
葵がマンションに戻ると、司が待っていた。
「おかえり。」
「ただいま。どうしたの?今日は雪乃さんと出掛けてたんじゃないの?」
「ああ。もう家に帰したよ。」
「そう・・・。」
荷物をソファーに置くと司に腕を掴まれた。
「話があるんだ。」
その時葵から男物の香水の香りがした。
「何?話って?」
「っ・・・。いや。やっぱり何でもない・・。帰るよ。」
「・・・・。解った。気を付けてね。」
司を見送ると、葵はため息をついた。
その時葵のスマホが鳴った。
「もしもし、樹?」
「ああ。今仕事中か?」
「家、だけど・・。」
「じゃあ、今飲んでるんだけど葵も来いよ。」
「・・・。そんな気分じゃない。」
「まぁ、そう言うなって?
一方的に電話は切られてしまった。
(仕方ない。行くか・・。)
数十分後。
葵は
「いらっしゃい。葵。」
マスターが笑いかけてくれる。
樹がマスターの声を聞いて振り返る。
「よぉ!来たな。こっちだ。」
ため息をついて樹の隣に座ると、樹が顔をしかめた。
「葵、どうしたんだ?男物の香水の匂いなんかさせて?」
「えっ?」
自分の洋服の匂いを嗅ぐと、確かに香水の匂いがした。
取り巻きの男が付けていた香水だ。
あの時、司の様子がおかしかった理由がやっと解った。
「仕事で、ちょっとね・・。」
「ふぅーん。そうか。で?あれから司とはどうだ?」
「・・・。」
樹は大きく息をはいた。
「お前らなぁ?・・・なぁ?葵。お前は司の事嫌いか?」
「・・・。」
「難しく考えなくていい。好きか嫌いかで聞いてるんだ。」
「・・・すき・・だよ。」
「だったら、何の問題も無いだろ?その気持ちを司に伝えてやれよ。」
「そんな、簡単じゃない。司は、私と出合わなければ今でも警察庁にいたはずだよ?」
「そんなの、解らないだろ?何かヘマして辞めてるかもしれない。」
「そんな事あるわけ無い・・・。」
「たらればの話をしだしたらキリがねぇよ。俺から見たら、お前らはお互いを思いすぎてスレ違ってるんだよ。単純に好きなら好きって言えばいいんだ。司がいい見本だろ?あいつは葵が好きって気持ちだけで動いてる。」
「・・・。」
「俺はあいつのそんな不器用だけど純粋な生き方を尊敬してる。俺には真似できないしな。だから、葵も色々考えるんじゃなくて素の気持ちを伝えたら良いんじゃないか?」
「・・素の気持ち?」
「司の事、好きなんだろ?好きだからこそ相手の事を色々考えるのもわかるよ。だけど、そんな事考えないで純粋に好きって伝えればあいつは喜ぶんじゃないか?それに、警察庁を辞めたこと癪だけどあいつは全然後悔してない。むしろ、今の方が生き生きとしてるよ。」
「そう・・なの?」
「ああ、司とは大学時代からの付き合いだけど親の事とかもあっていつもどこか冷めてた。怒ったり動揺したり今のあいつからは想像出来ないだろ?」
「うん。」
「あの頃の司は自分を殺してたんだと思うよ。だから、司が司らしく居られる今があいつにとっては幸せなんだと思う。司を変えたのは間違えなく葵だ。だから、自信を持っていいと思うぞ?」
そう言うと、樹は葵の頭をポンポンと撫でた。
「・・・わかった。」
「そっか?まぁ、すぐには難しいかもしれないけど・・・そう言うことだ。」
樹と別れた後、葵は一人夜空を見上げた。
星は見えないが月が優しく葵を照らしていた。
「お互いを思うあまりスレ違ってる・・か。」
確かにそうかもしれない。
司は何時だって真っ正面から想いを伝えていた。
葵が自分の心に蓋をしてしまっていたのだ。
司に対して、自分の生い立ちや今の仕事に負い目を感じていた。
決して、人に堂々と言える事ではないからだ。
「・・・。」
葵はもう一度夜空の月を見上げた。
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