第11話 初めてのデート

雪乃は夢心地だった。フワフワして幸せな気持ちでいっぱいだった。


「雪乃お嬢様?」


「あっ!和泉聞いて?私とうとうあの方を誘えたのっ!」


「あの方?」


「もー!私の運命の人よ!」


「えっ!・・・。本当に大丈夫なんですか?その人は。」


「何を言ってるのよ!司さんはとても素晴らしい男性よっ!和泉は心配性ねぇ?」


「司さん?」


「そう。桜葉司さんよ。」


「えっ?桜葉さんが雪乃お嬢様が言っていた運命の人なんですかっ?」


「そうよ?和泉、司さんを知ってるの?」


「あっ。いいえ、そうなんですか・・・。」


「今度のお休みに一緒に出掛けるの。ふふふ、まるで夢みたいだわ。まさかOKしてもらえるなんて・・。」


「・・・・。」





雪乃の部屋を後にした和泉は複雑だった。

確かに、司は男の和泉から見ても魅力的な男だった。

でも、雪乃を好きな気持ちだけは負けない自信があった。

だけど・・・。あそこまで、喜んでいる雪乃を見てしまうと何も言えなかった。


「雪乃お嬢様が幸せなら・・・。」


小さく呟かれた言葉は誰に聞かれることなく消えていった。





********





休日。

雪乃は朝からソワソワと落ち着かないでいた。


「ねぇ、和泉!この洋服変じゃないかしら?」


「雪乃お嬢様は何を着てもお似合いです。」


「それじゃ答えになってないわ!あっ、もうすぐ司さんがいらっしゃる時間だわ!」


足取りも軽く玄関のドアを開けると、ちょうど司の運転する車が停車した所だった。


「それじゃ和泉行ってくるわね!!」


「・・・はい。いってらっしゃいませ。」


雪乃の背中を見送った。

司は、和泉に気が付くと軽く会釈をした。

雪乃を助手席に乗せると走り去って行った。


「雪乃お嬢様・・・。」





司と雪乃は郊外にある水族館に来ていた。

休日ということもあり水族館はかなり混んでいた。


「じゃあ、行きましょうか?」


「はい。」


雪乃は司の隣に並んで歩いた。

館内は少し薄暗く、大きな水槽には色鮮やかな魚や海ガメなどが悠々と泳いでいた。


「わぁ!綺麗ですね?」


雪乃は無邪気な笑顔を浮かべた。


「そうですね。」


その後は、ペンギンやサメなど沢山の水槽を見て回った。


「素敵な場所ですね?水族館に来たのは久しぶりでとっても楽しいです。」


「そうなんですか?良かった、楽しんでもらえて。」


司が雪乃に笑顔を向けると、雪乃の心臓が跳ねた。


「あっ!あっちの水槽も見てみましょう!」


自分の鼓動を隠すように振り向くと、近くの人にぶつかってしまった。


「きゃっ!」


倒れそうになった雪乃を咄嗟に司は抱き止めた。


「大丈夫ですか?」


急に近付いた司の顔と体温に、頬が熱くなった。


「・・・はい。大丈夫・・です。」


「良かった。じゃ、行きましょう?」


雪乃から身体を離す。

その瞬間、雪乃の心臓がズキリと痛んだ。


(何?この感覚。さっきまであんなに心臓がドキドキしてたのに、司さんが離れてしまったら心臓が痛い・・・。)


「雪乃さん?」


「あっ!はい。行きましょう。」


雪乃は突然自分の中に芽生えた感情に戸惑っていた。


(私、一体どうしてしまったのかしら?)


その後は、イルカやシャチのショーを一緒に見たが雪乃は先程の事が気になって仕方がなかった。


一日を水族館で過ごし、夕食を取って雪乃を家まで送った。


「司さん、今日はありがとうございました。とても楽しかったです。」


「いいえ。俺も気分転換が出来て良かったです。」


「・・あのっ。・・また、一緒にお出掛けしてもらえますかっ!?」


「・・・良いですよ。また・・出掛けましょうか?」


「はいっ!」


嬉しそうな笑顔を浮かべた。

雪乃が玄関の中に入るまで見送った。


「・・・さてと。帰るか・・。」


司が車に乗り込もうとした時声を掛けられた。


「桜葉さん。」


声の方を見る。


「和泉さん。どうかしましたか?」


「ちょっと、個人的なお話があるんですけどお時間ありますか?」


「個人的な話?」


「単刀直入に聞きます。桜葉さんは雪乃お嬢様の事どう思ってるんですか?」


「・・・可愛いと思いますよ?でも、それ以前に彼女は今回の警護対象者です。それ以上の感情はありません。」


「そんなっ!!雪乃お嬢様は貴方の事を運命の人だって言ってるんですよっ?」


「申し訳ないけど、その気持ちには答えられません。」


「・・・。今日だってあんなに嬉しそうに出掛けて行ったのに。」


「俺には好きな人が居るんです。」


司は和泉の目を真っ直ぐ見つめて言った。


「っ・・お願いです、雪乃お嬢様を傷付けないで下さいっ。俺は雪乃お嬢様が傷付く所は見たくない!」


「和泉さん、貴方は・・・。雪乃さんの事が好きなんですね?」


「っつ・・・。そうです。俺は雪乃お嬢様の事が好きです。でも、俺は使用人だから気持ちを伝える気はありません。」


「和泉さんはそれで良いんですか?俺は使用人とかそういうのは関係無いと思いますけどね?好きな気持ちがあるなら伝えなければ始まりませんよ?」


「そんな、簡単に言わないで下さいっ!」


「・・・簡単に言ってるつもりはないですよ。俺は好きな人に気持ちをぶつけてますよ?拒絶されても諦めなかった。」


「桜葉さんの想いは伝わったんですか・・?」


「・・・伝わってるとは思うんですけどね。なかなか上手くいきません。」


司は自嘲気味に言った。


「・・そう、なんですか。」


和泉は何かを考え込むと、司に一礼して屋敷に消えていった。

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