第10話 雪乃の勇気

翌日には葵も大学に復帰していた。

司は何時ものように、大学へ行くと雪乃と深雪が居た。


「桜葉さん、おはようございます。」


雪乃が挨拶してきた。


「おはようございます。相良さん、真中さん。」


「おはよう、桜葉さん。・・・。」


深雪が何かを考え込むと司に向かって言った。


「桜葉さん。苗字で呼ぶのもよそよそしいから私たちの事は名前で呼んでください。私達も司さんって呼んでもいいかしら?」


こくびを傾けながら司を見た。


「深雪さんっ?そんなっ!」


雪乃が慌てるが深雪はお構いなしだ。


「どうかしら?折角、お友達になれたんですから。」


「・・・・。良いですよ。」


司は笑顔で深雪を見た。


(これが演技なら相当なもんだな・・・。)


昨日、葵の言っていた事を思い出す。


「良かったわね?雪乃さん?」


雪乃は頬を赤らめて俯いていた。

その後、講義も終わり三人で大学内のカフェテラスに来ていた。

三人でたわいもない話をしていると、

なにやら雪乃と深雪が小声で話をし始めた。


「雪乃さん!そろそろちゃんと誘わないと!」


「でもっ・・・。」


「そんな事ではいつまでも誘えないわよ?」


「・・・わかったわっ!頑張ってみます!」


雪乃が勇気を振り絞り司に話し掛けようとした時


「あっ!あお・・世良さん!」


ちょうど、カフェテラスの側を通りかかった葵を見付けて司が声を掛けた。


「あら?三人でティータイム?」


雪乃は葵に駆け寄った。


「葵さんっ!今から司さんを誘おうと思ってるんですけど一緒に居て貰えませんか?」


雪乃は半分泣き顔で葵に懇願した。


「・・・。お邪魔じゃないかしら?」


「そんな事ありません!お願いします!」


司と深雪を見るとテーブルに近づく。


「私もご一緒していいかしら?」


「勿論!良いですよね?司さん?」


深雪が司を見る。


「ええ。」


葵と雪乃が椅子に座るが、言い知れない緊張感が四人を包んだ。


「・・・。あのっ!司さん!」


意を決したように雪乃が司に話し掛けた。


「はい?」


「・・・・。あのっ・・・。そのっ・・・。司さんはお休みの日は何してらっしゃるんですか?」


「休みの日ですか?まぁ、仕事したりはしてますけど?」


「こ、今度のお休みはっ・・お時間ありますか?」


「・・・ええ。」


「っつ・・・。でしたら、私と一緒に出掛けませんかっ!!?」


捲し立てるように一気に言葉を吐くと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「・・・。」


司は葵の事をチラリと見るが目線が合うことは無かった。

雪乃は、心臓が今にも爆発しそうだった。

目をギュッと瞑り、司の返事を待った。


「桜葉さん?女の子にここまで言われたら断れないわよねぇ?」


葵が司をチラリと見ながら言った。


「・・・。良いですよ。出掛けましょうか?」


「えっ?」


雪乃は信じられないという表情で司を見た。


「良かったじゃない!?雪乃さん!」


深雪が雪乃の肩を揺する。


「・・いいん・・ですか?」


「ええ、良いですよ?」


司は雪乃を見つめて言った。


「葵さんっ!ありがとうございます!良かった・・・。」


雪乃は幸せそうな笑顔を見せた。


「良かったわね?相良さん。」


「はいっ!葵さんに相談して良かったです!」


雪乃は目尻に涙を浮かべていた。


「・・・・。二人で楽しんできてね?」


「はいっ!!」


喜ぶ雪乃を優しい眼差しで葵は見つめた。





********





「どういうつもりだっ!?」


司は葵に詰め寄った。


「どうもこうも、良いんじゃない?雪乃さんとお出掛けしてくれば。」


「何で俺となんだ?」


「・・・。女心が解ってないわね?雪乃さんは司の事が好きなのよ。」


「・・・。葵は知ってたのか?」


「2~3日前に相談された。司の事が好きだって。応援してくれって言われたわ。」


「それで?」


「応援するって約束した。」


「どうしてそんな事っ!?俺の気持ち知ってるだろ!?」


「大学では、他人なのにそこで応援しないなんて言えないでしょ?」


「だからって・・・!葵はそれでいいのか?」


司が真剣な顔で聞いてきた。


「・・・。相良家のお嬢様なら司にお似合いなんじゃないの?」


「っつ・・・。俺の気持ちはどうでも良いのか?」


「・・・・。」


「今日はもう帰るよ。」


そう言うと、葵の家から出ていってしまった。


「司、ごめんね・・・。」


葵の言葉は夜の闇に消えていった。





「葵は一体どういうつもりなんだっ!?」


司は樹を飲みに呼び出していた。


「なんだ?随分と荒れてるな?葵と喧嘩でもしたのか?」


「・・・。葵の気持ちが解らない。」


「葵の気持ち・・・ね。何があったんだ?」


「葵が、他の女と俺をくっ付けようとしてるんだっ!」


司はグラスに残っていた酒を飲み干した。


「なるほどな。・・・。」


「何だよ樹。なんか知ってるのか?」


「この前葵に会ったんだ。その時、葵の気持ちは揺らいでた。お前の気持ちは嬉しいけど、自分には不釣り合いだって言ってたよ。自分に巻き込んでしまったことを後悔してた。」


「そんな事を・・・?」


「ああ。葵も悩んでるんじゃないのか?お前の気持ちを受け入れていいのかどうか。」


「・・・。」


「司の家の事も知ってたんだろ?葵なりに葛藤があるんじゃないか?」


「そんな事一言も言ってなかった・・。」


「それは、そうだろ?いつも冷静を装っているけど色々考えてるんだろうよ。」


「・・・。」


「お前は、お前の思う様にしたらいいと思う。警察庁を辞めてまで葵を選んだんだ。今、一緒に居ることが答えなんじゃないか?」


「そう・・かな?」


司の瞳は不安げに揺れていた。

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