第9話 脅迫状
司は大学の廊下を歩いていた。
教室の前で、雪乃が友人達と話をしていた。
(あれ?今日は真中深雪は一緒じゃないのか?)
そう思いながら近付くと、雪乃が司に気付いた。
「桜葉さん。おはようございます。」
頬を赤らめながら挨拶をしてきた。
「おはようございます。今日は真中さんと一緒じゃないんですね?」
「ええ。何でも体調が優れないみたいでお休みなんです。心配だわ・・・。」
「・・そうなんですか。」
「あのっ!今日もご一緒しても宜しいですか?」
「えっ?でも、お友達と一緒じゃないんですか?」
すると、話をしていた男性が雪乃に近付いて耳打ちをした。
「頑張れよ!俺達は退散するから。」
雪乃の顔が更に赤くなった。
「俺達は別の授業なんですよ。なのでお気になさらずにどうぞ!」
「あ、そうなんですか?じゃあ、相良さん行こうか?」
「はいっ!!」
雪乃は俯きがちに司の隣に並んだ。
「雪乃!またねー!」
「じゃあなー!」
雪乃に声を掛けて別の教室へと入っていった。
「いいお友達ですね?」
「はい。皆さん良くしてくれて、大学に入ったばかりの頃は私一人ぼっちだったんです。なかなかお友達が出来なくて・・。でも、彼女達が話し掛けてくれてお友達になってくれたんです。家の事とか関係なく良くしてくれて、本当に感謝してるんです。」
「そうなんですか・・・。」
司は自分の大学時代を思い出していた。
当時、頭角を表し始めた父親の影響で司の周りはギスギスしていた。
皆、自分ではなくその後ろの父親を見ているのを感じ取っていたのだ。
そんな中、何も関係なく接してくれたのが樹だった。
(あいつのお陰で俺は随分救われたんだよな・・。癪だけど。)
ちらりと雪乃を見る。
「そういう友人は大切にした方が良いですよ。きっと、一生の友人になりますから。」
「はい。」
雪乃は嬉しそうに笑った。
その後、一緒に講義を受け雪乃を家まで送っていく事にした。
「ありがとうございます、送って下さって。」
「良いんですよ。所で最近身の回りでおかしな事とかないですか?」
「おかしな事ですか?特にありませんけど・・。どうしてそんな事聞くんですか?」
「いえ。ただ気になっただけなので。」
「そうですか?」
そんな話をしていると雪乃の家に着いた。
「あのっ!桜葉さん!そのっ・・・。」
「?」
「いえっ!何でもないです。今日は送って下さってありがとうございました。」
「いいえ。じゃあまた明日。」
「はい。・・明日。」
雪乃は司の背中を見送った。
(駄目だわ。遊びに誘うなんてっ。勇気が出ないわ。)
トボトボと家に入っていった。
一方、司は雪乃の家の回りを見回りしたが怪しい人間は特に見当たらなかった。
駅に戻ろうとした時、司のスマホが鳴った。
『桜葉さんですか?和泉です。先程雪乃お嬢様がお戻りになったんですが、鞄の中に手紙がっ!!』
「えっ?ストーカーからのですか?」
『はい。』
司は和泉と駅で待ち合わせをして、ストーカーからという手紙を預かった。
(おかしいな?今日は一日一緒に居たのに一体いつ入れたんだ?)
一日の行動を思い出すが特に変わりはなかった。
********
夜、司は葵の元を訪れた。
「葵?居るか?」
リビングのドアを開けると、風呂上がりの葵が髪の毛をタオルで拭いていた。
「っつ・・・ごめん。」
「司?おかえり。何で謝るの?」
「あ、いや、何でもない。」
頬が熱くなるのを感じた。
「・・・。そうだ、雪乃さんにまたストーカーから手紙だ。」
和泉から預かった手紙を葵に渡す。
『あなたの運命の人は俺だ。あいつなんかじゃない。あなたは俺に気が付いていないだけだ。近いうちにあなたを迎えにいく。あなたと俺と永遠に二人っきりで暮らすんだ。今から楽しみにしているよ。待っていてね。』
「・・・・。」
手紙を見ると何かを考え込んでいた。
「司、前の手紙持ってる?」
「ああ。」
鞄の中から、以前和泉から預かった手紙を取り出し葵に渡す。
葵はテーブルの上に手紙を並べた。
「この今日の手紙と、以前の手紙やっぱり違うね?」
「違う?」
「そう。筆跡は同じだけど、以前の手紙は『僕』って言ってるのに今日のは『俺』になってる。それに、雪乃さんの事『君』って書いてるけど『あなた』になってる。」
「本当だ!?どういう事だ?ストーカーが二人居るって事か?でも、筆跡は同じだよな?」
「そうね・・・。多分、手紙を書いているのは同じ人だと思う。ただ、この文章を考えているのが別の人間なんじゃないかな?」
「ただのストーカーて訳じゃなさそうだな?そういえば、今日は真中深雪は大学を休んでたよ。」
「みたいね。大分、素行が良くないわね。周りに居る人間も。大学ではお嬢様を演じてるんでしょうね。」
「そうか・・・。まさか、この手紙は真中深雪が?でも、今日は一日雪乃さんと一緒に居たけど見掛けなかったしな・・・。」
「ふぅーん。一日一緒に・・ね?」
隣に座る葵がニヤリと笑った。
「仕事だろ?」
「良いんじゃない?職場恋愛も。」
「何言ってるんだっ!」
葵に顔を近づけた時、石鹸のいい香りがした。
「っつ・・。」
葵の顔を見つめて、頬に手を伸ばした。
「ごめん。まだ赤いな・・・。」
「どうして司が謝るの?それにもう大丈夫だから、気にしないで?」
司は葵を抱き寄せた。
「俺の母親がしたことだ。本当にごめん。」
「ふふっ。いいのよ。お母様の許せない気持ちもわかるしね。」
「だからって、葵を傷付けて良い訳じゃないっ!!」
身体を少し放して葵を見つめた。
葵の深い瑠璃色の瞳に自分が映っていた。
「俺は、葵が何よりも大切だし傷付いてほしくない。」
「・・・。私は、司にそんなに想って貰えるような人間じゃないよ・・。」
寂しそうな顔をして司から離れようとした。
「あおいっ!」
葵が消えてしまうんじゃないかという衝動にかられて強く抱き締めた。
「司?苦しいよ・・。」
「どうしてそんな事言うんだ?俺は本当に葵の事が好きなんだ。この気持ちはどんな事があっても変わらない。」
「・・・。私には幸せになる資格なんてないの・・。」
「どうしてっ!?」
身体を放し葵を見つめた。
「何でそんな事・・・。幸せになる資格なんて誰にでもあるだろ?」
「ふふっ、私にはそんな資格ない。」
俯きながら消えそうな声で言った。
司はそれ以上何も言えなかった。
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