第8話 間中深雪
深夜、
「・・・。葵、どうしたんだ?その顔。」
カウンターに座る葵にマスターが聞いてきた。
「うん?まぁ、ちょっとね・・・。」
「・・・そうか。」
葵はマスターの出してくれたカクテルを飲みながら司の両親の事を思い出していた。
(まぁ、遅かれ早かれこうなるとは思ってたけど・・・。まさか、桜葉大臣が認めるとは思ってなかったな。まさか・・・。)
空のグラスを揺らしながらそんな事を考えていた。
カウンターの中のマスターが入口に視線を移すと藤堂が入ってきた。
マスターに軽く手を挙げると、会釈をしてカウンターを後にした。
藤堂が葵の隣に座る。
「藤堂さん・・・?」
葵は驚いた様に藤堂を見上げた。
「あおい。元気にしてたか?」
優しい笑顔を浮かべた。
「はい。元気ですよ?」
葵の頬に優しく触れた。
「そうか?大丈夫だったか?」
その言葉で全てを理解した。
「藤堂さん・・。大丈夫ですよ、この位。」
「桜葉夫人は気が強いからな・・。」
「・・・。藤堂さんの口添えがあったんですね、やっぱり。」
「余計な事・・だったかな?」
「いいえ。お手数お掛けしました。本来なら、もっと拗れてもおかしくない話なので・・。助かりました。」
「そうか?」
「はい。」
「・・・。桜葉司という青年はなかなか良さそうだね?」
「私には勿体無い位の人間ですよ。」
葵が自嘲しながら言った。
「何を言うんだ?家柄なら葵だって立派だ。」
「ふふっ。それは『倉橋沙羅』の家柄・・・ですよ?今の私はただ裏社会を生きるだけの人間です。」
葵は寂しそうな笑顔を浮かべた。
「・・・。そうだったな。」
藤堂は葵の頭を撫でて、まるで慰める様に抱き寄せてくれた。
葵にとって言葉よりも、その行動が嬉しかった。父親の様に優しく接してくれる藤堂に身を委ねた。
********
翌日。
顔の腫れが治らない葵は大学を休んで真中深雪の尾行をしていた。
深雪は、朝家を出ると繁華街に向かい朝から営業しているBarを訪れていた。
窓越しに見える深雪は数人の男達と親しげに話をしている。
(なるほどね・・・。こっちが素って感じね。大学ではお嬢様を演じてるってところか。)
数時間後、男達と深雪が外に出て来た。
深雪は男達と別れ一人で繁華街に消えていった。
葵は、男達の後をつけた。
年の頃は20代後半。腕にタトゥーを入れている男も居る。
そのまま、喫茶店に入っていった。
葵も後を追い、男達のテーブルの後ろの席についた。
「いつまで、あのお嬢ちゃんの言う事聞いてなきゃいけないんですか?」
「もう暫くだ。あの女は金になる。とりあえず、あの女の言う通りお前達は動いとけ。後でいい思いもさせてやるよ!」
リーダー格の男が指示を出した。
(金になる・・・?それに、いい思いって?)
喫茶店を出ると、リーダー格の男は一人になった。
(・・・・。)
葵は一人になった男の後に続く。
男は、当てもなく歩き段々と人気の無い路地裏に入っていく。
ビルとビルの間を抜けた所で男は身を翻し自分が今来た道を見るが誰も居なかった。
「おかしいな?後を付けられてる気がしたんだけどな・・・。」
暫く辺りを見回したが諦めてその場を後にした。
「ふふっ。なかなか良いカンしてるけど、まだまだね。」
男が去ると、ビルの間から葵が姿を現して男の後ろ姿を見つめた。
「私も、今日はここまでかな?」
そう呟くと踵を返して雑踏の中に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます