第7話 怒り

夜。

司が葵のマンションにやって来た。


「葵?どうしたんだ?その顔っ!!」


司は葵の顔を見るなり慌てて言った。


「ああ。ちょっとぶつけただけ。たいしたことないよ?」


「・・・口の中も切ってるだろ?本当にぶつけたのか?」


司は葵の頬をソッと触りながら聞いてきた。


「ほんとだよ。」


「・・・・。本当の事を言ってくれ?何があった?ぶつけただけでそんな風にはならないだろ?」


葵はため息を吐いた。


「・・・司のご両親が来たのよ。」


「両親がっ?・・・母か?」


「えっ?」


「葵を傷付けたのは母かっ?」


「・・・・。」


「あいつ等っ!!」


「待って司!!良いの。気にしてないから。」


「葵が良くても、俺が良くないっ!!」


今にも飛び出して行きそうな司を止めた。


「本当に良いからっ!!ご両親の気持ちも解ってあげて?」


「だけどっ!!」


「つかさ!?誰だって、警察庁を辞めたなんて聞いたら冷静じゃいられないよ?それに、お父様は貴方の事を頼むって頭まで下げてくれたのよ?」


「あの人が・・?」


「そう。だから責めないであげて?」


葵は司を見上げた。


「ごめん。俺のせいだ・・。」


司は葵の頬を指で撫でた。


「いいのよ。いつか、こういう事があると思ってたから。」


「っつ・・・。」


司は葵を抱き寄せた。


「本当にごめん。家の事に巻き込んで。」


葵はただ黙って司の背中を撫でた。





「それより、雪乃さん今日はどうだったの?」


「ああ、和泉さんから連絡があったよ。ここ2~3日は手紙が入ってなかったらしい。」


「そう・・・。」


葵は何かを考え込んでいた。


「他に雪乃さんに変わったことは?」


「無いな。大学ではいつも真中深雪と居ることが多いみたいだしな。」


「真中製薬のお嬢さんね?」


「ああ。普段から仲が良いみたいだ。」


「ストーカーが付きまとうようになった三ヶ月前は何か変わった事は無かったの?」


「和泉さんに聞いたけど、特に無いみたいだな。ただ、三ヶ月前真中深雪が初めて雪乃さんの家に遊びに来たとは言ってたけど?」


「真中さんが?」


「ああ、真中深雪とは三回生になってから友人になったらしい。」


「そう・・・。とにかく、司は雪乃さんに付いててあげて?私はちょっと、真中深雪を探ってみるから。」


「わかった。」





********





一方。

真中深雪が自宅に帰ったのは深夜だった。


「・・・・。」


リビングのソファーに荷物を投げると部屋を見渡した。

人気がなく、ガランとした部屋を睨み付けるように見た。

その時、玄関の方で車のエンジン音と話し声が聞こえてきた。

レースのカーテンをソッと開けると、深雪の母親が派手なスポーツカーに乗った若い男とキスをしていた。


「っつ・・・!」


母親が機嫌が良さそうに家に入ってきた。


「また、男遊び?」


「深雪?まだ起きてたの?別に良いじゃない?あの人だって若い女とよろしくやってるんだから!」


「だからって!!」


「何よっ!!私が悪い訳じゃないわ!!」


そう言うと、自分の部屋に入っていってしまった。


「なによっ!!みんな、自分勝手なんだからっ!!」


深雪は手が白くなる程きつく握り締めた。

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