第3話 運命の人

「旦那様。桜葉様から連絡がありました。依頼を引き受けて頂けるそうです。」


和泉は息を切らせながら柊一朗の元に報告に来た。


「おお、そうか!引き受けてくれたか!雪乃は見合いはする気が無いみたいだからな。であれば、ストーカー自体を排除するしかないだろう。」


「えっ?雪乃様にお見合いのお話があったのですか?」


「和泉は知らなかったのか?結婚してしまえばストーカーも諦めると思って私が段取りをしたんだ。」


「そ、そうでしたか・・・。」


「和泉も雪乃の力になってやってくれ。お前達は幼馴染みと言ってもいい仲なんだ。」


「・・・。はい。かしこまりました。」


和泉は、一礼をして部屋を後にした。


「・・・・。」





数日後。司は音羽大学のキャンパスに居た。


(何で、俺が大学生になるんだよっ!!)


普段はノーネクタイのスーツ姿だが、大学生らしく少しラフな格好をしていた。

雪乃の受講している授業は把握していたので、同じ講義室に入る。

一斉に、司に視線が集まる。


「あの人誰?」

「ちょっと、格好いいね?」


女子学生が、ヒソヒソと話しているのを聞きながら講義室を見回すと、雪乃が友人と既に席に着いていた。

司は、雪乃達の近くの席に座る。


「・・・・。」


談笑していた雪乃の友人が司に気が付く。


「あら?見掛けない人が居るわよ雪乃さん。」


雪乃は司に視線を移す。


「貴方は・・・。」


司も雪乃を見る。


(あれ?この娘、そういえばこの前ホテルに居た娘だよな?)


「・・・・。」


雪乃の友人が声を掛けてきた。


「貴方、見掛けない方ですけど?教室間違えてませんか?」


「あっ。いや、俺は編入してきたばかりなんですよ。」


「まぁ!そうなんですか?私は真中深雪と申します。こちらは、相良雪乃さん。宜しくね。」


「俺は桜葉司といいます。よろしく。」


穏やかに微笑む。


「運命・・だわ。」


雪乃が小さく呟く。


「えっ?」


「いえ!何でもないですっ。桜葉司さんと仰るんですね?宜しくお願いします。」


雪乃は頬を赤らめながら司を見つめた。


(とりあえず、接触は成功か・・。)


その時、教壇に二人の人物が姿を現した。


(!!嘘だろっ?)


年配の教授がマイクを握ると、隣に居る女性を紹介した。


「授業を始める前に紹介しておきます。私の助手を務めてくれる世良葵さんだ。」


伊達眼鏡をかけた葵が居た。


「暫くの間三島教授の助手をさせていただきます。皆さん宜しくお願いします。」


笑顔で挨拶をする葵を見た司は呆気に取られた。


「ヤバくね?可愛いんだけど!」

「美人~!」

「マジでタイプなんだけど!」


今度は男子学生がザワつく。


「・・・・。」




授業も滞りなく終わり、三島教授と葵は講義室を後にした。

司は葵の後を追おうとしたが、深雪が話し掛けてきた。


「桜葉さん。この後お時間ありますか?カフェテラスでお茶でもしません?」


「え、ええ。良いですよ。」


司は雪乃達と一緒にカフェテラスへ向かった。




「相良さん、真中さん何を飲みますか?俺買ってきますよ?」


「あっじゃあ紅茶を。」

「私も。」


二人の注文を聞くと司はレジへと向かう。


「雪乃さん?何だか顔が赤いけど大丈夫?」


「だいじょうぶ。」


雪乃はそう言うのが精一杯だった。

司が飲み物を買って戻ってきた。


「どうぞ。」


二人に紅茶を差し出すと、深雪が司に聞いてきた。


「桜葉さんは何故この大学に編入されたんですか?」


「スキルアップの為です。それに今、学び直しって流行ってるでしょう?」


「確かにそうですね。普段は何をされてるんですか?」


「一応、会社経営をしてます。今の会社をより良いものにする為に経営学部に編入したんです。」


「まぁ、社長さんなんですか?」


「社長って言っても大したことはないですよ。零細企業です。」


「そうかしら?随分やり手に見えますけど?」


雪乃は、深雪と司の会話に入ることが出来ずにいた。

そんな雪乃に気付いた司が話をふった。


「相良さんと真中さんはいつも一緒なんですか?」


「あっ、はい。深雪さんといつも一緒に居ることが多いです。」


「そうですか。仲が良いんですね?」


「は、はい。」


(大学では友人と居るのか。じゃああの手紙はいつ鞄に入れられているんだろうな・・?)


司が考え込んでいると雪乃が意を決した様に話し掛けてきた。


「あのっ。先日は本当にありがとうございました。私の事覚えていらっしゃいますか?」


「いいえ。大丈夫ですよ。勿論覚えてますよ。」


司が笑顔を雪乃に向けると、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「えっ?なになに?雪乃さんと桜葉さんはお知り合いだったの?」


「知り合いという程でも。数日前に東都プリンスホテルでちょっと会ったんですよ。」


「まぁ。そうなんですか?それでまたこうして会えるなんて運命ね雪乃さん?」


『運命』という言葉に反応してしまう。

自分の鼓動が司や深雪にまで聞こえてしまうのではないかと思う位高鳴っていた。

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