第4話 葵の葛藤
カフェテラスで話終えた司は雪乃達に別れを告げキャンパスを歩いていた。
花壇の近くで葵と数人の男子学生が話をしていた。
「世良さん、今日良かったら俺達と飲みに行きませんかっ?」
「ごめんなさい。これから資料の整理があるので・・・。また機会があったら誘ってくださいね?」
笑顔で男子学生をあしらう。
「・・・・。」
「ほんと、いい女だよな世良さんって!」
「また、誘ってみようぜ?」
そんな男子学生のやり取りが聞こえてきた。
葵は然程気にもせず校内に入っていってしまう。
司は思わず後を追った。
周りを見ると人は居ない。
葵に近付くと手を握り誰も居ない教室に入る。
「司?どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ!?葵も大学に潜入するなんて聞いてないっ!そもそも、何で俺が大学生で葵が助手なんだ?普通逆だろ?」
「ふふっ。司が大学生でも全然おかしくないよ?それに、・・・私は海外生活が長いし学校の事とかは良く解らないの。だから、司が適任なんだよ。もう一度学生気分を味わえるなんてそうそう無いんだし、良いじゃない?」
「だけどっ!!」
「早速、接触出来てたね?その調子で探ってみて?」
「・・・。一ついいか?」
「なに?」
「変な誘いには乗るなよ?」
葵は目を瞬かせた。
「はいはい。大丈夫だよ?司も女子学生に人気みたいよ?」
「俺は、葵以外に興味はない。」
少しふて腐れたように司が言った。
「・・・。今日はもうこのまま帰って大丈夫だから。お疲れ様。また明日頑張って?」
「葵?」
司の胸元をトンっと叩いて教室から出ていってしまう。
葵の後ろ姿を見送ると司はため息を吐いて椅子に座った。
********
夜。
「マスター、お代わり。」
「葵。飲みすぎじゃないのか?」
「これ位、全然大丈夫だよ。おかわり。」
「全く、これ飲んだら帰れよ?」
マスターは渋々酒を作ると葵の前にグラスを出した。
そのグラスを取ろうとした時、後ろから延びてきた手にグラスを取られてしまう。
「ちょっと!!」
葵が振り向くと、樹がグラスを持って立っていた。
「いつき?どうしたの?珍しいね?」
「・・・。」
樹は何も言わずに酒を飲み干した。
「それ。私のなんだけど?」
「マスターも言ってたろ?飲みすぎだ。」
樹は葵の隣に座った。
マスターが炭酸水にライムを入れたグラスを出してくれる。
グラスを手に取ると一気に飲み干す。
「酔ってないって言ってるでしょ?もういい!」
葵はお金を置くと店を出ていこうとするが、樹に腕を掴まれる。
「樹はゆっくりしていきなよ?」
「葵、どうした?何かあったのか?」
「・・・別に。何もないよ。」
「まぁ、良いから座れよ?」
いつになく真剣な様子に葵はもう一度カウンターに座った。
「司とはどうだ?」
「・・・。」
「葵?」
「・・・。正直、私には不釣り合いだと思ってる。悪い意味じゃなくてだよ?司は私なんかと一緒に居るべき人間じゃない・・・。だから、樹にお願いがあるの。司が警察庁に戻りたいって言ったら戻れる様にしてあげて?司の居場所を作ってあげて・・・。」
「葵。司はそんな中途半端な気持ちで辞めたんじゃない。葵の側に居たいんだ、キャリアの立場を捨ててでも。」
「・・・。司の気持ちはとっても嬉しいよ?でもね、いつも答えが違うの・・・。司の気持ちに答えていいのか。私は弱い人間なの・・。だから司の想いを利用してる。一人ぼっちは寂しいから。でも、それは私のエゴなの。司を巻き込んで良いわけないっ!」
「葵・・・。」
吐き捨てる様に苦しそうにそう言った葵の葛藤が理解できた。
「やっぱり、酔ってるみたい。樹ごめん。今夜はもう帰るね?」
「葵。司の気持ちは本物だ。あいつは警察庁を辞めた事後悔なんてしてない。それより大切なものをあいつは見付けたんだ。その気持ちだけは理解してやってくれ?」
「・・・。」
葵は何も言わずに店を出ていってしまった。
マンションに戻り玄関を開けると男物の靴がある。
「・・・・。」
リビングに行くと司が待っていた。
「・・・。今日はもう良いって言わなかったっけ?」
荷物を置きながら司に言う。
「大学で様子がおかしかったから。気になって。・・・飲んできたの?」
「うん。ちょっとね・・。」
「酔いざましにお茶入れるよ。」
「大丈夫だよ。そんなに酔ってないから。司ももう帰って?明日も大学があるでしょ?」
司が葵の顔を見つめる。
「それは、葵もだろ?」
さっきの樹の言葉が脳裏を過る。
「・・・。司?ごめんね・・・。」
「何で謝るんだ?」
「うん・・・。何となく。」
「何かあった?」
「何もないよ・・・。」
司は葵の隣に座って顔を覗きこんできた。
「何もない・・って顔じゃないけどな?俺には何でも話してほしいな?」
司の真っ直ぐな視線に目を合わせられなかった。
「葵?」
「司は後悔してない?警察庁辞めた事。」
「そんなの!後悔するはずないだろっ!俺は葵と居られるだけで良いんだ!」
「っつ、でもっ!キャリアも肩書きも捨てて私なんかと一緒に居ても・・いい事なんて無いよ?」
最後の言葉は聞き取れない位小さかった。
「どうしてそう思うんだ?」
「・・・そんなの、誰が聞いたっておかしいと思うよ・・。」
「俺は後悔したくないから今の選択をした。他の人間の意見なんて関係ない!」
「・・・ほんとに?」
「本当だ!どうしてそんな事を聞くんだ?」
司は葵を抱き締めた。
「・・・ごめん。今の忘れて?」
司の体温が心地よくて安心する。葵はソッと瞳を閉じた。
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