社長令嬢の初恋 〜貴方は私の王子様〜
朔良
第1話 運命の出会い
「はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・・」
(もうだめっ!息がっ!それに帯が苦しいっ!)
息が上がって足を止めた。
後ろを振り返ると足音が近付いてきた。
(このままじゃ捕まっちゃう!!)
辺りを見回すと『staff only』のドアを見付けて咄嗟に中に入る。
息を殺して様子を伺う。
「おい、こっちに来たはずだ!」
「でも姿が見当たりません。」
「何がなんでも探しだせっ!!」
「はい!」
足音が遠退いていく。
ドアを少し開けると、そこには誰も居なかった。
(良かった。行ったみたい。)
「初恋もまだなのに、お見合いで結婚するなんて絶対に嫌っ!」
そう呟きながらロビーに出る。
上品な振袖に身を包んだ相良雪乃はトボトボと玄関を目指した。
普段、あまり運動をしないせいか着慣れない着物を着ていたせいか足が縺れて倒れそうになる。
「きゃっ!!」
(転んじゃう!こんな所で恥ずかしい。)
その瞬間、逞しい腕に抱き止められた。
「おっと!大丈夫ですか?」
優しい声が降ってくる。
「ありがとうございます。大丈夫・・です。」
まるで、男性に抱き締められたような態勢から顔を上げる。
「気を付けて下さいね。」
雪乃は男性から目が離せなくなった。
まるで、おとぎ話から抜け出たような王子様だ。
少しクセのある髪に、茶色い瞳。目鼻立ちがしっかりした顔。そして、自分を軽々と受け止める逞しい身体。
「・・・・。」
雪乃はまるで夢を見ている様だった。
「おうじ・・さま。」
「えっ?」
ハッとして身体を離す。
しかし、雪乃の心臓は煩いほどに高鳴った。
「あっ・・いえ。あっ、ありがとうございました。」
頭を下げると、男性は優しい笑顔を見せてくれた。
「大丈夫ですよ。貴女に怪我がなくて良かった。」
「・・・・。」
思わずその笑顔に見とれてしまう。
「どうかしましたか?」
「あっ、大丈夫です。本当にありがとうございました。」
「いいえ。」
男性は、丁寧にお辞儀をしてホテルの奥に消えていってしまった。
「・・・素敵な男性。まるで王子様だわ。」
雪乃は暫くその場を離れる事が出来なかった。
********
桜葉司は東都プリンスホテルのラウンジに来ていた。
約束の時間の10分前。
そこには、既に依頼人が待っていた。
「お待たせして申し訳ありません。高倉和泉さんですか?」
声を掛けると、スーツを着た青年が立ち上がる。
「はいっ!桜葉様ですか?」
年の頃は20代半ばだろうか。まだ少し幼さの残る顔立ちだが爽やかな印象のする好青年だった。
「はい。桜葉司と申します。」
「この度はご依頼を受けて頂きありがとうございます。」
深々と頭を下げる青年に司は面を食らった。
「いえ。まだ、依頼を受けるかどうかは。詳しいお話を聞かせて頂けますか?」
「あっ!はい。」
二人でラウンジのソファーに座る。
「相良財閥のご令嬢がストーカー被害を受けられてるという事でしたが?」
「はい。雪乃お嬢様は、三ヶ月前からストーカーに付きまとわれているのですっ!」
興奮気味に、青年は言った。
「何か、実被害があったのですか?」
「はい。こちらを。」
高倉は、数通の手紙を司に手渡した。
中身を確認する、
『今日の洋服もとても良く似合っているね。』
『今日は少し寝坊したね?夜遅くまで勉強していたからね。』
『友達は選んだ方がいい。あの男は君には不釣り合いだ。僕の方が君の事を想っている。君に似合うのは僕だ!』
年頃の女性が受け取ったらとても怖い思いをするであろう言葉が連なっていた。
司は思わず顔を歪めた。
「これは・・酷いですね。」
「はい。この様な手紙がお嬢様の鞄の中に入っていて・・。」
「鞄の中に・・?雪乃さんは大学生なんですよね?」
「はい。音羽大学の三回生です。」
「音羽大学・・。ご学友の中に怪しい人は?」
「そんなっ!雪乃様のご学友を疑うなんてとんでもない!」
「そうですか・・・。他に心当たりは?」
「そんなものがあったらあなた方に頼んだりはしませんよっ!!・・・あっ!失礼致しました。取り乱してしまいまして。」
「いいえ、大丈夫ですので気にしないで下さい。」
「はい。ありがとうございます。」
「・・・。このご依頼、一度持ち帰っても宜しいですか?世良とも相談したいので。こちらの手紙はお預かりしても構いませんか?」
「はい。宜しくお願い致します!」
高倉和泉は何度もお辞儀をしながらラウンジを後にした。
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