第18話 本当の初恋

「和泉っ!和泉!!」


病院に運び込まれた和泉はストレッチャーで処置室に運ばれていた。

雪乃は、意識の無い和泉にすがり付くように呼び掛けていた。


「付き添いの方はここでお待ち下さい。」


和泉を乗せたストレッチャーが処置室の中に消えていった。


「いづみ・・・。」


雪乃は力無く呟くと、その場にへたりこんでしまった。

司は雪乃の肩を優しく抱いて立たせると椅子に座らせた。


「雪乃さん、和泉さんは大丈夫ですよ。だから落ち着いて?」


「ほんとに?ほんとに和泉は大丈夫なんですか?あんなにグッタリしてた・・。もし、死んじゃったら私・・わたしっ!」


雪乃の大きな瞳からは涙が溢れる。

カタカタと震えていた。


「ゆきのさんっ!!大丈夫だから!俺を信じて?」


雪乃の目を真っ直ぐ見つめた。


「はい・・。」


時計の秒針が妙に響く。

雪乃は俯いたままだ。

その時、処置室のドアが開いた。


「先生っ!!和泉は?和泉は大丈夫なんですかっ?」


雪乃が医師にすがり付いた。


「大丈夫です。打撲が酷いですが、命に別状はありませんから。」


「よかった・・。」


和泉の無事を聞くと、雪乃の身体から力が抜けた。

意識が遠くなる。


「雪乃さんっ?雪乃さん!」


司さんの声が遠くに聞こえる。

バタバタと足音が聞こえた。

そこで、雪乃は意識を手放した。





雪乃は夢を見ていた。

幼い雪乃が泣いている。


「ふっ・・・うぇ・・。」


「ゆきの?どうしたんだ?また意地悪されたのか?」


声を掛けてきたのは和泉だった。


「うん。みんなが、仲間外れにするの。雪乃の事嫌いなのかな?」


大粒の涙を溢しながら和泉に言った。

和泉は雪乃の涙をハンカチで拭きながら優しく頭を撫でた。


「そんなわけ無いだろ!」


「じゃあどうして?皆意地悪するの?」


「それは、ゆきのが可愛いからだ。」


「可愛いと意地悪するの?」


「そうだ。ゆきのは何も悪くない。だから笑って?僕はゆきのの笑った顔が好きなんだ。」


和泉にそう言われると雪乃の涙は自然と止まった。和泉に笑顔を向ける。


「うん。いづみ大好き!」


和泉に抱き付くと、優しく抱き締めてくれた。


「私、いづみのお嫁さんになる!」


「えっ?僕のお嫁さんになってくれるの?」


「うん。だから将来お嫁さんにして?」


「・・・。いいよ。ゆきのの事お嫁さんにする!」


二人で指切りをした。


(私の初恋は和泉だったんだ。和泉はいつも私の側に居てくれた。私が本当に好きなのは・・・。)


目を覚ますと、司さんの心配そうな顔があった。


「わたし・・?」


「良かった。雪乃さん。」


「和泉はっ?」


「大丈夫。今はまだ眠ってる。心配ないよ。」


「良かった。」


司に和泉の病室に案内される。

怪我の後が痛々しかった。

雪乃は和泉の手を握った。


「和泉。ありがとう。ごめんね。」


暫くして和泉の意識が戻った。


「和泉?わかる?雪乃だよ?」


「・・ゆき・・の、お嬢様・・?」


「うん。」


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「うん。和泉が守ってくれたから大丈夫だよ。」


「よかっ・・た。」


「いづみっ!」


雪乃は和泉に抱きついた。


「本当に、本当に良かった。」


そんな二人を見て、司は静かに病室を後にした。

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