第17話 救出 【2】

「やめろっ!!」


司は工場のドアを勢いよく開け放って叫んだ。


「誰だっ!?」


「和泉さんを放せ!」


「警察かっ?」


一瞬、男達が後退するが一人が声を上げた。


「こいつ、あっちのお嬢様と一緒に居た男だ!警察なんかじゃない!」


その言葉に男達が安堵の色を浮かべた。


「脅かしやがって!おい、こいつも見られたからにはただで帰せねぇーな?」


意識の無い和泉を床に放ると、司に殴りかかった。

雪乃はベッドから降りると和泉に走りよって抱き上げた。


「和泉っ!和泉!目を開けてっ!!いずみっ!!」


雪乃の瞳からは涙が溢れていた。


司は男達の攻撃をスレスレて避けていた。

殴りかかって来た男を避け、その手を掴むと後ろ手に捻り上げると男を突き飛ばす。

次の男が金属バットを振り上げてきた。

金属バットを避けて、男の足元を足払いすると派手に倒れ込んだ。


「ちっ、調子に乗りやがって!!」


残りの男がポケットからナイフを取り出した。


「ぶっ殺してやる!!」


ナイフを振りかざして司に向かってくる。

司は攻撃を避け、相手の後頭部を手刀で殴ると気を失って倒れこんだ。


(くそっ、キリがないなっ)


和泉の方を見ると、雪乃が必死に和泉に呼び掛けていた。


「余所見してる暇はないぜっ!」


もう一人がナイフを振りかざしてきた。

咄嗟に相手の腕を掴むが、ナイフが司の目の前でジリジリと近付いてくる。


「くっ・・!」


何とか相手を押し退けようとする。


「ふん。お前もここまでだなぁ?」


ニヤリと笑った。背後に気配を感じて振り向くと、金属バットを振りかぶった男が目に入った。


(しまった!!)


一瞬、目を瞑ったが想像した衝撃が無いので片目を開けると金属バットを持っていた男が悲鳴を上げてのたうち回る。


「・・・。」


受け止めていたナイフを奪うと男を殴り飛ばした。

その時、葵から無線が入った。


『司っ!雪乃さんと和泉さんを安全な場所に誘導して?』


『今の葵か?でもっ!』


『大丈夫だから、早く和泉さんを病院に!!』


『・・・わかった。』


その瞬間、二階から荷物が崩れる音がした。


「なんだ?まだ、誰か居るのかっ!?」


男達の気が反れた瞬間に、司は雪乃と和泉の元に走りよる。


「つかさ、、さん。和泉が・・和泉がっ!!」


雪乃が司にすがり付く。

司は和泉の様子を見ると、抱き上げる。


「雪乃さん、和泉さんは大丈夫だ。走れる?」


「はいっ!」


司と雪乃は出口に走り出した。


「おい!逃がすなっ!!」


後を追おうとした男達の足元に銃弾が撃ち込まれる。


「あんた達の相手は私よ?」


拳銃を手にした葵が姿を現す。


「何だおまえはっ!?」

「あっ!お前この前の女!!」


葵に声を掛けてきた男が叫ぶ。


「ふふっ、この前はいい夜だったわね?」


「ふざけるなっ!!」


男達が二階への階段を登ってきた。


「あんた達、ここでどれだけの女の子を泣かせてきたの?許せないっ!!」


葵の表情が変わる。

司や樹達に見せる笑顔は全く無い。酷く冷たく感情の読めない表情が浮かぶ。


「ふん。女に何が出来る?」


「そう思うならさっさと来なさいよ?」


背筋がゾッとする程の視線を向けられて男達はたじろぐ。


「ふ、ふざけんなっ!」


葵に殴りかかるが、簡単にかわされて手首を掴まれそのまま二階から投げ落とされる。


「さっさと来なさいよ?来ないならこっちから行くわよ?」


葵が一歩前に出ると、男達は一歩後ろに下がる。


「お前達なにしてる?たかが女一人ださっさとやれ!!」


リーダー格の男が指示を出す。


「くそっ!!」


ナイフを手にした男達が近付く。


「素人がそんなもの振り回すもんじゃないよ?手加減出来なくなるからね?」


「うぉぉぉ!!」


男達が葵に飛びかかる。

葵はナイフを避けると、ナイフ目掛けて蹴り上げるとナイフが宙を舞う。

男の手首を掴んで後ろ手に捻り上げて、残りの男達目掛けて突き飛ばした。

階段の上に居た男達は、階段を転げ落ちていった。


そこに、リーダー格の男が現れる。


「なかなか、やるみたいだな?でも、これで終わりだ。」


深雪に拳銃を突き付けていた。


「・・・。」


「この女がどうなってもいいのか?銃を捨てろ!」


「あ、葵さんっ!助けてっ!」


深雪が葵に懇願する。


「私は、雪乃さんと和泉さんが助かればそれでいいの。その女は好きにすればいいわ。」


感情の読めない冷たい言葉が響く。


「そ、そんなっ!!」


深雪は目に涙を浮かべた。


「くそっ!!」


男は深雪に向けていた銃口を葵に向けた。

それより早く葵が発砲した。

葵の弾丸は男の銃身に吸い込まれていった。


「ぐわ!!」


男が手を押さえながらのけ反った。

葵は男の頭に銃口を突きつける。


「諦めるのね?終わりよ!!」


男は力無く膝まずいた。

葵はスマホを取り出すと電話をかけた。


「樹?誘拐事件発生よ。警官を今から言う場所に向かわせて?」





「全員動くなっ!!」


警官達が廃工場に突入してきた。

中には、手首を縛られた男達が床に転がっている。


「どういう事だ?」


突入してきた警官達は戸惑うが、男達の回りには拳銃やナイフが落ちていた。


「お前達!銃刀法違反だっ!!」


工場内が慌ただしくなる。


「・・・。」


その様子を見守る樹が居た。


「いつき。」


物陰から呼ばれると葵が居た。


「葵?どういう事だ?誘拐って?それに司は一緒じゃないのか?」


「司は今病院に行ってる。被害者は相良財閥のお嬢さんよ。銃刀法違反に暴行・叩けばいくらでも埃は出てくる連中よ?」


「はぁ。お前、まためんどくさい事持ち込んだな?」


「良いじゃない?これで、あいつ等に泣かされる女の子は居なくなるわけだから。」


「・・・。」


「どうしたの?」


「その相良財閥のお嬢さんから事情は聴けるのか?」


「さぁ?それはどうかな?とりあえず、銃刀法違反って事で良いんじゃない?」


「・・・。わかったよ。今回は貸しだからなっ!?」


「りょーかい!ありがと、樹。」


そう言うと、葵は夜の闇の中に消えていった。

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