第16話 救出 【1】

リーダー格の男は悠々とソファーに座り煙草を吸っていた。

一瞬、ちらりと横目で見たが直ぐに宙に視線を移した。


「お前四人相手に勝てると思ってんの?」


和泉の真っ正面にいる男が拳を振り上げて殴りかかってきた。

和泉はスレスレで避ける。


「っと、へぇ?なかなかやるんだ?お前ら手加減すんなよ!」


「くっ・・・。」


四人が和泉目掛けて飛びかかる。

避けるので精一杯だった。


「逃げてばっかりじゃねーか!かかってこいよ?」


ニヤリと笑いながら言った。


「いずみっ!!危ない!!」


その瞬間、和泉の背中に激痛が走った。

痛みでその場にうずくまると背後に金属バットを持った男が薄笑いを浮かべて立っていた。


「くそっ!」


男は、金属バットを投げ捨てると和泉を後ろから羽交い締めにして立たせた。


「おい、皆いいサンドバッグが出来たぜ?」


「はなせっ!」


和泉は振りほどこうと身じろぐが、背中が痛み力が入らない。


「ははっ!いいねぇ?」


最初に殴りかかってきた男が和泉を殴る。


「っつ・・・。」


次の男はミゾオチの辺りに膝蹴りをする。


「うっ・・。」


和泉の口からは血が垂れる。


「やめてっ!和泉が死んじゃうっ!!」


雪乃の悲鳴のような叫びが響く。





「ここだ。」


司がスマホを見ながら廃工場を見つめた。


「和泉さんは?」


車を降りて辺りを見回すが和泉の姿が無い。


「まさか?一人で乗り込んだんじゃ・・?」


工場の入口を少し開けて中の様子を伺うと、和泉が男達に暴行を受けていた。


「司、これ。」


葵はイヤホン型の無線を渡した。


「司、行ける?私は二階から援護するから。」


工場の外階段を見ながら言った。


「わかった。大丈夫だ。」


「・・そう。じゃ、くれぐれも無理はしないでね?」


「葵も。」


お互いの顔を見合せると、葵は外階段を登っていった。

直ぐに工場内に続く扉が有るが鍵が掛かっていた。


「・・・。」


葵は、腰に付けたホルスターから拳銃を抜くとドアノブに向かって撃った。

鍵が壊れ、少しドアが開く。

HARBORハーバーのマスターが消音装置サイレンサーと一体型の拳銃を仕入れてくれたお陰で中の男達に気付かれる事なく侵入出来た。

二階は物が散乱していたが、人一人が通れるくらいの空間があった。


葵は、気配を消して中の様子を見る。

和泉に暴行している男達の中に、バーで葵に声をかけてきた男も居た。


視線を移すと、リーダー格の男がソファーに座っていて雪乃と深雪が顔を強張らせてベッドの上にいる。


(なるほどね・・。)


だいたい、例の男から聞き出した情報と同じだった。


(深雪さんもあの男達に利用されてたって訳だ。)


男達に利用されていたとはいえ、深雪のしたことは決して許される事ではない。

葵は、深雪に同情する気にはなれなかった。


そこに、司が工場に入ってきた。

男達は司の突然の登場に慌てた様子だった。


(・・・始まったか。)


葵は拳銃をホルスターにしまい司と男達を見つめた。

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