第15話 和泉の勇気
「んっ・・。」
葵が目を覚ますと、司はまだ眠っていた。
(昨日、あのまま寝ちゃったんだ・・。)
司を起こさない様にソッとベッドを出た。
冷蔵庫から水を取り出して一口飲むと身体に染み渡っていく。
「はぁ・・・。」
「どうしたんだ?ため息なんてついて。」
いつの間にか司が起きてきていた。
「おはよう。何でもないよ?」
「おはよう。そうか?」
「うん。」
********
一方、雪乃は和泉に見送られて大学へと向かった。
「雪乃さんはもう出掛けちゃった?」
清香がパタパタとやってきた。
「はい。今お出掛けになりましたが、何かありましたか?」
「スマホを忘れていったみたいなのよ。」
「あっ、じゃあ俺届けてきます。まだ追い付くと思いますので。」
「そう?じゃあお願いするわ。」
和泉は清香からスマホを受け取ると、走って雪乃の後を追った。
直ぐに、雪乃の姿が見えた。
「雪乃お嬢様っ!」
和泉に呼び止められて振り返った時、雪乃の背後からワンボックスカーが近付いてきた。
雪乃の隣でスッと停まると後部座席のスライドドアがガラッと開いた。
中から男が二人降りてくる。
雪乃の口を塞ぎ車の中に引きずり込むと急発進して走り去ってしまった。
一瞬の出来事に和泉は呆気にとられた。
「雪乃お嬢様ーーー!!」
和泉は辺りを見回すとタクシーを捕まえた。
「あの車を追って下さいっ!急いで!!」
一体何が起きているのか、和泉は混乱していた。
(落ち着けっ!とにかく、雪乃お嬢様を助けないとっ!)
和泉は雪乃のスマホを握りしめた。
(そうだ!桜葉さんに連絡をっ!)
「雪乃さんから電話だ。」
司はスマホの画面を葵に見せて電話に出た。
「もしもし、雪乃さん?」
『桜葉さんですかっ?』
「和泉さん?どうしたんですか?」
『それが、雪乃お嬢様が拐われてしまってっ!今車を追い掛けてるんですっ!』
司は通話をスピーカーに変えた。
「和泉さん、落ち着いて!今、その車の後を追ってるんですね?」
『はい。タクシーでっ。』
「和泉さん?世良です。雪乃さんはいつも使ってるバッグを持ってましたか?」
『えっ?バッグですか?はい。いつも使っているものでした。』
「司、私達も行きましょう!」
「えっ?行くって・・。」
「大丈夫。雪乃さんのバッグにGPSを仕込んであるから。とにかく急ぎましょう!」
「ああ。和泉さん、我々が着くまで待っていてください。決して一人で行動しないで下さい。」
『わかりました。』
電話を切ると、ワンボックスカーは廃工場に入っていった。
和泉は、工場の手前でタクシーを降りた。
(どこか中の様子がわかるところはないかな?)
工場の入口を見ると、窓が少し開いていた。
そこから、中の様子を伺う。
ガランとした工場内には、何故かソファーとテーブル・ベッドが置いてある。
ソファーには、男が一人座っていた。
そこへ、ワンボックスカーが停まる。
後部座席から男に連れられた雪乃が降りてきた。
「貴方達何なんですかっ?」
「迎えに行くって言ったでしょー?手紙読んでないの?」
ニヤニヤしながら男達は雪乃を品定めするように見た。
「手紙?何の事?私手紙なんて受け取ってないわ。」
男達は顔を見合わせた。
「なぁ~んだ。読んでないのかよっ!つまんねーの!」
「だから手紙って?」
「まぁ、俺達はあんなのどうでも良いんだけどなぁ!」
ソファーに座っていた男が雪乃に近付いた。
「あんたも、友達は選んだ方がいいな?」
「友達って?どういう事っ?」
雪乃の手を掴むとベッドの側まで連れていった。
「まぁ、後で解るよ。それまで大人しくしてるんだな?」
雪乃をベッドの上に押し倒した。
「やめてっ!!」
「お楽しみは後だ。」
そう言うと、またソファーに座った。
「雪乃お嬢様っ!!」
和泉は居てもたってもいられなかった。
(雪乃お嬢様が怖い思いをしてるのに、俺は見てるしか出来ないのかっ!!)
もう一度中を覗くと男達は煙草を吸っていた。
(っ・・・。相手は四人・・。でもっ!)
和泉は一通りの護身術は身に付けていたが、相手が四人となるとそうはいかない。
その時、一台の乗用車が入ってきた。
(桜葉さん達かっ?)
車に視線を移すと、知らない男だった。
咄嗟に物陰に身を隠し助手席を見ると、見知った女性が乗っていた。
(あれは、間中さん?どうしてここに?)
「あっ、来たみたいですよ?」
男と連れだって間中深雪が車から降りてきた。
「深雪さん?どうしてっ?」
深雪は男達と話をして雪乃に近付く。
「あんた、手紙見てなかったんだって?どういう事?読まないで捨ててた訳?」
「深雪さん?手紙って本当に何の事なの?私は手紙なんて貰ってないわ?」
「あんたの鞄の中に入ってたでしょ?」
「鞄の中に?知らないわ。」
「深雪、このお嬢様は本当に知らないみたいだぜ?」
「あんた達ちゃんとやったの?」
深雪が男達に向かって言った。
「俺達はあんたの指示通りそこのお嬢様の鞄の中に手紙入れたぜ?誰かが抜き取ってたんだろうなぁ?」
深雪は舌打ちをして悔しそうに雪乃を睨んだ。
「誰よ?余計な事したのは!!」
「深雪・・さん?」
「ふん!まぁ、いいわ。だったらこの男達に女にしてもらうのねっ!!」
「何を言ってるの?ねぇ!深雪さんっ!」
「深雪さん深雪さんってうるさいのよ!あんたなんか友達じゃないわ!」
「えっ・・?」
「元々、気に入らなかったのよ!親にも使用人にも大事にされてっ!何が運命の人よっ!ばっかじゃないの?」
「そんな・・。酷い。」
雪乃は目に涙を浮かべた。
「あんた達、この女好きにしちゃって良いわよ!!」
深雪が男達に振り向いた瞬間、一人の男に突き飛ばされベッドへ倒れこんだ。
「ちょっと!なにすんのよっ!」
「へへっ、好きにすんのはこのお嬢様だけじゃない。お前もだよ!」
「なに言ってんのよっ!!」
「俺達がなんでお前みたいなお嬢ちゃんの言いなりになってたと思う?お前も一応社長令嬢だからな?これから、お前らの家に身代金の要求をするんだよっ!」
「なんですって?」
「いい金ズルなんだよ、お前もそっちのお嬢様もな?金が手に入るまで俺達が相手してやるよ?ユックリとなぁ?」
「うそ・・でしょ?やめてっ!」
深雪の顔には焦りの色が浮かんだ。
「ほんもんの、社長令嬢のアダルトビデオも高く売れるだろうなぁ?」
男達はニヤニヤしながら雪乃と深雪に近付いた。
「この女の事好きにしていいからっ!私は見逃してっ!」
深雪が雪乃を前に押し出した。
「深雪さんっ?」
「諦めが悪いな?」
「いやっ!やめてっ!」
雪乃が叫んだ。
「やめろっ!!雪乃お嬢様に触るなっ!!」
和泉はたまらず工場の中に飛び込んでいた。
「誰だ?」
「和泉っ!!」
「ふ~ん。こっちのお嬢様の使用人か?一人で乗り込んでくるとはいい度胸だなぁ?俺達が相手してやるよっ!」
男達は和泉を取り囲んだ。
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