第20話 本当の気持ち

Bar HARBORバー ハーバー

葵と司がドアを開ける。


「よぉ!こっちだ!」


樹がカウンターから声をかけた。

二人は樹を挟んで座る。


「どうだ?あの連中は?」


「ああ。彼奴等は素直に取り調べに応じてるよ。銃刀法違反だけじゃなくて、薬物売買に婦女暴行・特殊詐欺に余罪のオンパレードだ。恐らくまだ出てくるだろうな。」


「随分手広くやってるな?バックが付いてるんじゃないのか?」


「その辺も取り調べてる。あんな若造が手に負えるもんじゃないからな?所轄も前々から目を付けてたらしいんだがリーダー格の男が狡猾でな。なかなかたどり着けなかったらしい。捕まるのはいつも末端の連中だったみたいだ。」


「へぇー。じゃ、樹お手柄だな?」


「まぁな?お前らのお陰だ。」


樹は葵と司の肩を叩いた。


「で?真中深雪はどこでそんな奴等と知り合ったんだ?」


「前々から出入りしてたバーで知り合ったみたいだ。そんな連中とは知らずにな・・。まぁ、彼奴は真中深雪の素性を調べてたらしい。何かに利用出来ると思ってたんだと。」


「成る程な・・。それが、身代金てわけだ?」


「ああ。特殊詐欺なんかよりよっぽと稼げる。成功すればの話だがな。」


「そうだな。」


「当の真中深雪は事情だけ聞いてお咎め無しだがな?」


「仕方ないよ。雪乃さんが被害届を出さなかったんだから。」


グラスを揺らしながら葵が呟く。


「やっぱり、相良財閥のお嬢様だからか?世間体もあるしな?」


「違うわ。雪乃さんは真中深雪の事を考えて出さなかったのよ。」


「あんな目にあってもか?」


「雪乃さんはまだ友人だと思ってる。一緒に過ごした時間は嘘じゃないって言ってたわ。」


「はあー。そんなお人好しで相良財閥の跡取りとして大丈夫なのか?」


「・・・。そこが雪乃さんの良いところなんじゃないの?それに、雪乃さんなら大丈夫。一番近くに彼女の事を理解して守ろうとしている人が居るから。」


「そうか・・。なら安心だな?」


「それに彼女も怖い思いをした事だし、良いんじゃないの?」


「そういうもんかねぇ?なぁ司?」


「俺にフルなよ!?」


樹と司のやり取りを見ていた葵がクスリと笑う。


「葵?」


司が顔を覗き込んできた。


「ふふっ、いいコンビだなって思って。」


「えぇ!司とかよ?」


樹がぼやく。


「それは、こっちの台詞だ!!」


「・・・。そんな事より、お前らはどうなんだよ?」


「どうって?」


「ちゃんと、話出来たのか?」


二人とも黙ってしまう。


「おいおい。あれだけ言っただろっ?いい機会だ二人でちゃんと話せよ。邪魔者は退散するからさ。」


そう言うと、樹は席を立った。


「頑張れよ?大丈夫だ。骨は拾ってやる。」


司の耳元で囁く。


「お前っ!縁起でもないこと言うなよ!!」


「はははっ!じゃーなー。」


樹は軽い足取りで帰っていってしまった。


「・・・。」


「・・・・。」


沈黙を破ったのは司だった。


「俺の気持ちは前に伝えた通りだ。今も変わらない。葵の本当の気持ちを聞きたい。」


司の真剣な視線が葵を射ぬいた。


「・・・。私と一緒に居たら危険がついて回る。私は、司を危険な目に合わせたくない。」


「それは、俺だって同じだ。葵を危険にさらしたくない。」


「私はもう覚悟が出来てるから。この仕事を始めた時から・・。」


「俺に覚悟が無いって言いたいのか?」


「そうじゃない。ただ、私と出合わなければ司は今も警察庁に居たでしょ?こんな、危険と隣り合わせな世界とは無縁だった。」


「俺と出合った事、後悔・・してるのか?」


「司は後悔してない?」


「するわけないだろ?俺は葵と出合えて良かったと思ってる。」


「っ・・。」


司の真剣な表情は決して嘘を言っているのではない事位葵にもわかった。

いつかの、樹の言葉が浮かぶ。

『お互いを想い合いすぎててスレ違ってるんだ。』

確かにそうなのかもしれない。


「わたしは・・・。」


「わたしは?」


でも、勇気が出なかった。

視線が不安そうに揺らぐ。

思わず手を握り締めた。


「なぁ?葵。難しい事考えなくていい。ただ、俺と一緒に居るのは迷惑か?」


握り締めた葵の手に、司が優しく手を置いた。


「・・・。迷惑じゃ・・ないよ。」


絞り出すように呟かれた。


「なら、これからも一緒に居てもいいか?」


「・・・うん。」


「そっか。良かった。」


葵の頭を優しく撫でた。

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