第13話 パーティー
数日後。
「明後日、相良氏の主催のパーティーに行ってくれる?」
「はっ?」
いきなりの話に司は目を瞬かせた。
「・・・。何で俺なんだ?まだ、雪乃さんと俺をくっ付けようとしてるのか?」
「・・・。違うわ、相良氏からのご指名よ。司に是非来てもらいたいって・・。」
葵は目を伏せて言った。
「葵・・。俺の事迷惑か?」
司は優しく聞いた。
「っ・・。そんな事・・ない。でも・・。」
「でも?」
「・・・。」
司と目線を合わせようとしない葵にため息をついた。
「わかった。明後日だな?」
「・・・うん。」
司は葵の頭を撫でて帰っていった。
********
パーティー当日。
司は、帝都ホテルの前に居た。
(流石、相良財閥の現当主が主催するパーティーだけあるな。場所も一流だな・・・。)
ため息をついて、ホテルの中に入っていった。
受付を済ませ、会場内に入ると既に沢山の参加者が歓談していた。
パーティー開始までまだ時間がある。
(先に相良氏に挨拶しておくか。)
そう思っていると、
「つかささんっ?」
視線を移すと、薄いピンクのドレスを身に付けた雪乃が目を見開いていた。
「雪乃さん。」
「今日はどうされたんですか?」
「雪乃さんのお父上に招待されましてね。」
「お父様がっ?」
「ええ。」
雪乃は頬を赤らめて司を見つめた。
「司さん、タキシード凄く似合ってます・・・。」
「えっ?ああ、ありがとう。雪乃さんもドレスとても似合ってますよ。」
ドレスで着飾った雪乃は普段より大人っぽく見えた。
「あっ!お父様とお母様だわ!」
雪乃の視線を追うと、入口から柊一朗と清香が会場に入ってきた。
「ちょっと、呼んできますね。」
そう言うと、走って行ってしまった。
暫くして、雪乃は柊一朗と清香を連れて司の元に来た。
「こちら、桜葉司さんです。」
雪乃に紹介される。
「本日はお招き頂きましてありがとうございます。桜葉司です。」
丁寧に挨拶をすると、柊一朗は目を細めて司を見た。
「いえいえ。来ていただいてありがとう。雪乃から話は聞いてるよ?とっても、好青年だってね。」
「嫌だ、お父様そんな事言わないで・・。」
雪乃は照れた様に俯いてしまった。
「雪乃。ちょっと飲み物を貰ってきてくれるかな?」
「はいっ。あっ、司さんの分も貰ってきますね!」
そう言うと、パタパタと会場の奥にあるバーに向かった。
「すまないね。落ち着きがなくて。」
柊一朗はそう言ったものの、雪乃を優しい眼差しで見ていた。
「今日は、世良さんも誘ったんだが予定が合わなかったみたいで残念だよ。お礼を言いたかったんだがね。」
「えっ?ええ、申し訳ありません。」
「いや、良いんだ。お忙しいんだろうからね?」
「・・・。」
「雪乃の件、宜しくお願いしますと伝えてください。」
「わかりました。」
「じゃあ、今日は楽しんでいって下さいね。」
にこやかにそう告げると、他の来客者の所に挨拶に行ってしまった。
司はため息をつくと、会場を見回した。
(財界・政界の人間が多いな・・。)
その時背後から声を掛けられた。
「司?」
聞き覚えのある声に振り向く。
「父さん・・。」
「お前、何でこのパーティーに?」
「・・・仕事の関係でだよ。」
数年ぶりに父親と顔を合わせた。
「今日は、世良さんは一緒じゃないのか?」
「ああ。俺一人だ。」
「そうか・・。元気でやってるのか?」
「まぁ、一応。」
「・・・。この前は母さんがすまなかったね。世良さんは大丈夫だったか?」
申し訳なさそうに聞いてきた。
「たいしたことはないよ。」
「そうか。申し訳なかったと改めて伝えてくれ。」
「・・・。解った。」
「・・・。司、今まで悪かったな。でも、お前はお前の信じた道を行け。何も気にすることはない。」
司は信じられなかった。今まで、父親が自分に対して謝る事なんてなかった。それ以前に、忙しすぎてまともに会話をするのも数年ぶりだった。
「・・・。たまには、家に顔を出せ。母さんも喜ぶ。」
「・・・。わかった。」
話が一段落するのを見計らった様に秘書が間に入ってきた。
「大臣。そろそろ、スピーチのお時間です。」
「わかった。今行く。」
司に向き直ると
「じゃあ、またな。」
「ああ。」
司は外の空気を吸いにバルコニーに出ていた。
(まさか、父さんまで居るとはな・・・。)
夜風が酔った身体に心地良かった。
バルコニーの手摺にもたれ掛かってウィスキーを飲んでいると、また声を掛けられた。
「失礼ですが、桜葉司さん・・ですか?」
声の主に視線を向ける。
「はい。そうですが、貴方は?」
「私は、藤堂という者です。」
「藤堂さん?どうして俺の名前を?」
「ああ。私は葵の父親がわりのような者なんですよ。」
「葵の?」
確かに、藤堂の纏う雰囲気は葵に似ていた。
「ええ。私はあの子が幼い頃からの知り合いでね。今は色々と世話を焼いてるんです。」
「そう・・なんですか?」
「君の事も聞いているよ。どうだい?葵とは上手くいってるか?」
「・・・。どうなんですかね・・。」
自信なさげに呟いた。
「あの子はとても心の優しい子だ。特に自分の周りにいる人間にはね。」
「知ってます。」
「だから、余計に心配なんだ。周りを気遣うばかりで自分の事はいつも後回しだ。そのせいで、沢山傷付いてきた。身体の傷は治るが心の傷はなかなか治らない。」
「・・・。」
「君は葵の事は好きか?」
「・・はい。」
司は藤堂を真っ直ぐ見て頷いた。
「そうか。なら、君にお願いがある。葵の事を支えてやってくれないか?」
「俺はそうしたいです。でも、葵が・・。」
「そうはさせてくれないか?あの子は強がっているが人一倍寂しがり屋で愛情に飢えてる。それを表に出せない環境に身を置いていたんだ。だから、君には諦めてほしくない。」
「それって・・?」
「私の口からは言えないな。葵が話せる様になるまで待ってやって欲しい。」
「・・・。俺は葵を諦める気は全くありませんし、いつまでも側に居ます。」
司の言葉を聞くと、藤堂は目を細めて笑った。
「そうか。ありがとう。葵の事、頼むよ。」
司の肩に手を置くと会場の中へ消えていった。
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