その砦のごはんはおいしく、あたたかい。おっさんと狐っ子のほのぼのメシ!
- ★★★ Excellent!!!
戦災によって傷ついた心を抱える料理人のダズリーと、ワケあり空腹で倒れていたキツネっ子魔族のヒナ。深い森の奥にある革命軍の砦でふたりが出会い、おいしいごはんを通して親愛を深めていくほのぼのファンタジーです。
歳の差、ケモミミ、おっさん、お料理――時代が求める要素を余すことなく散りばめつつも、このお話の全篇から立ち昇るのは炊き立てごはんのような温かな優しさ。この砦に身を寄せる者は総じて戦の世の中に苦しめられてきた者たちばかりですが、だからこそ仲間を想う心が強い。最初は警戒心でいっぱいだったヒナも、ダズリーの素朴な思いやりにだんだんと心を開いていきます。
人間族はもちろん、この世界には魔族や獣人族といった異なる種族が暮らしています。思想も好みも違う彼らが集う砦のキッチンを取り仕切るダズリーは毎日大忙し。彼の愛する調理場には火加減を調整してくれる火蜥蜴といったユニークで可愛い助手もいて、まさにファンタジーの憧れがつまっています。かと思えば調理パートはリアルに表現されており、思わずレシピを書き留めたくなるほど。誰か作ってくれないかなあ……笑
どんなに悲劇に見舞われようと、生きていればお腹が減る。傷ついても塞ぎ込んでも、空腹からは誰も逃れられません。ダズリーは重い剣を振り回すことも派手な魔法を行使することもできませんが、彼は彼なりに砦のみんなの胃袋を整えてあげているのです。食べるひとのことを心から想う繊細な料理の数々は美味しそうなのはもちろん、すこし不器用な三十路料理人の優しい心がいっぱいに篭っていて思わず目から塩スープが流れてしまいそうになることもしばしば。
砦が迎えるキャラクターは段々と数を増し、やがてあちこちで春の訪れを感じることに。大人として若者たちの恋の行方を面白がるダズリーですが、実はそばを離れない小さなキツネっ子の存在が思った以上に大きくなり……?幼いだけかと思いきや、時折ドキリとした表情を見せてくれるヒナに読者は夢中になってしまいます♡
最近、誰かが作ってくれたごはんを食べましたか?誰かのことを想ってごはんを作りましたか?
――どちらもしばらくご無沙汰だという読者さん、ぜひこの砦のキッチンを覗いてみてください。きっと、心もお腹もいっぱいになるはずです。