★★★ Excellent!!!
誰かと寄り添うこと、食べること 月船みゆ
家族も故郷も何もかも無くしたダズリーという料理人。彼はヴェルクという青年に拾われ、ダグラ森の砦という別名「革命砦」と呼ばれているところで心の傷を抱えながらも料理人を始める。
ようやくその傷が薄れかけてきた頃、うまく言葉の喋れない「ヒナ」という狐のなりをした少女が行き倒れていて……。
という展開から分かる通り、癒し系の作品です。
ダズリーは家族を亡くし、ヒナはおそらく故郷を追われ、そんな傷つきあった二人が、マイペースな獣人医師のリーファス、例のヴェルク、翼を持つ少女たちのミスティアとフェリアら、なんだかフラグを立てられがちな強面のガフティ、イケメンのシャイルなどなどに見守られ、ダズリーの振る舞う料理とともに少しずつ癒されていくお話です。
おそらくダズリーはそれまでは喪失を抱えてあまりにかわいそうな状態であり、機械的に料理を作っていたんだと思うのですが、ヒナと出会ってからは彼女が喜ぶもの、楽しいものを考えて料理するようになっていきます。
保護者と被保護者のような、家主と居候のような、親子同士のような、親戚同士のような、はたまた恋人同士のような、ダズリーとヒナの不思議で繊細な言語では語れない愛に満ちた関係も見もの。
面白いのが、主人公・ダズリーの年齢に合わせて若干スレた文章であり、なおかつ物の見方にものすごく余裕があるということ。本作ではイケメン枠として登場するシャイルや本作ではオッさん(若いのに……)枠として登場するヴェルクが活躍するElenarze Continente Historiaの緊迫感とは一味違った味わい深い大人の余裕があり、人間模様を観察する際にダズリーさんが人を評する温かみのあるけれども鋭い言葉がとても好きです。
物語通り、戦火の中、ほっと一息つける場所にご案内された気分です。