美味しい料理と温かい日常にお腹も心もいっぱいになります!

戦災によって家族を喪った料理人ダズリー。革命軍の砦で包丁をふるうことになった彼は、ある日狐獣人の子供、ヒナを拾う。
身寄りのない彼女を引き取り、砦での生活が始まるというお話なのですが。

まず何よりも狐っ子のヒナが可愛い!和国であるジェパーグ出身である彼女は言語もカタコト、文化も違うので、モチやらハシやら聞き慣れない語彙にダズリーも砦の者達もちんぷんかんぷん。それでも、耳や尻尾で感情がすぐにわかってしまうという、獣人っ子の愛らしさが最大限に出ています。
対するダズリーも、ヒナの為に料理人としての知識と腕前を駆使して様々な料理を作ってあげます。ヒナの出身地が日本を模したジェパーグであることから、読者には簡単に想像できる「ダイフク」や「ダンゴ」もダズリーにとっては未知の食べ物。カタコトのヒナから得られる断片的な情報をもとに、彼女の喜ぶ姿が見たくて一生懸命にそれらしいお菓子を作るダズリーの姿は、忙しさに追われてコンビニや店屋物で済ませてしまう食生活をしている我々現代人に、料理や食事の温かさを思い出させてくれます。

誰かを想って作る美味しいご飯。
大切な人達と食卓を囲む楽しさ。

戦乱の世を舞台にしているだけあり、砦に集まるのは辛く苦しい経験をしてきた人達ばかり。だからこそ、平和で優しい時間の大切さが身に染みます。

もちろん、ファンタジー世界ならではの魅力もたっぷり。砦のオーブンは精霊である火蜥蜴が火を起こしてくれるのですが、焼き上がりを知らせてくれたり自分で火力調節してくれたり、ワクワクするような仕掛けがいっぱいあります。様々な地域から人が集まっている為、同じメニューでも地域差が出てくる所も面白いですね。たくさんのご飯と砦のメンバーの触れ合いを通してダズリーやヒナの心情にも徐々に変化が出てくるところも見所です。

ファンタジーの魅力とご飯の美味しさ楽しさがぎゅぎゅっと詰まった本作。愛らしい狐っ子とほんのり香る恋心のスパイスを添えて、読者のお腹も心もいっぱいにしてくれる作品です。
日々の疲れを癒やす休息のお供に、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

その他のおすすめレビュー

結月 花さんの他のおすすめレビュー920