求めた温もりは、氷雪の中に。凸凹夫婦が挑む、お仕事ファンタジー♡

極寒に加え、貧富の差が激しい都市の下層で暮らしていたライサ。肩身が狭い状況でありながらも親戚の家で粛々と薪割りの仕事をこなす彼女だったが、なんと従姉妹の身代わりとして嫁に出されることに。しかもその嫁ぎ先は、魔法具を作り出す職人たちが住むという謎の村で……?という、望まぬ結婚から始まるストーリーです。

しかし都市からは恐れられていたその村に辿り着いたライサを待っていたのは、思わぬ歓待。この婚約にたくさんの誤解があったことを知ったライサでしたが、いろんな事情から村に留まることを決めます。彼女の伴侶となるのは、赤い髪を持つ大らかな狩人ザック。慎重で心配性、大胆で気楽という正反対の凸凹夫婦の誕生でしたが、ふたりはいきなり難しい試練に直面することに……。

作者の寺音さんの場面描写は精密で、まるで白銀の世界が目の前に広がっているかのような没入感があります。過去作では熱い砂漠の地を舞台にしていたのに、今作では真逆の極寒の暮らし。しかし今回も世界観は隅から隅まで手を抜かれることなく、寒いの苦手なのに素敵な暮らしだなーと憧れさえ抱いてしまうほど魅力に溢れていました。

魔物から作られる魔法具に関しても面白い設定が盛りだくさんで、モンスター好きの方はとても楽しめると思います。魔物や森の恵みに感謝しながら暮らすスノダールの在り方には学ぶところがたくさんあり、ライサと一緒に感心するばかり。そんなしっかりとした世界観の中、ライサとザックを中心にした人間ドラマがこれまた心を温めてくれます。村の人々も元気なのもいい。田舎のばーちゃんにはほんと、敵いません(笑)。

置かれた状況下で淡々と生きていくしかないと強く心を張りつめ、人生の喜びを諦めてしまっていたライサ。ザックや村人との交流によりその心がだんだんと溶けていく様子に癒されます。自分でも気づかなかった長所や短所、そしてひとは一人では生きていけないのだと気づいていく若者の成長は尊いですね。村人たちが世話を焼きたくなるのわかるううう(近所のおばちゃんみ)

夫婦で足りないところを補って暮らし仕事をするうちにやがて、成り行きで結んでしまった婚姻にも本当の愛が宿りはじめます。しかし最後までスローライフというわけにはいかず。最終章では二人はお互いの心の闇を知り、また現実にも迫り来る大きな問題に向き合うことになります。今までの魔法具作りの経験や、ふたりのひたむきさが引き寄せるラストは冷たくて、温かくなる……!(読めばわかる)

寒い季節にこそ読んでいただきたい、ほっこり純愛お仕事物語。身体は暖かくして、ぜひスノダール村を訪れてみてください。

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