選べない優しさはやがて、選び背負う強さへ。愛と死と成長のファンタジー!
- ★★★ Excellent!!!
いじわるな継母の計略により父殺しの汚名を着せられ、死人のように生きてきた王女スノウリア。
生者のことが苦手な極度のコミュ障で、森深いお屋敷内で『生きる屍』の使用人たちと暮らす死霊術師デュレイン。
命からがら逃げ出したものの従者とも別れてしまい、森で行き倒れたスノウリア。そんな彼女を、新鮮な死体が落ちてるぞ!とばかりに喜んで屋敷に連れ帰ってしまうデュレイン。当然彼女は起き上がり、当然死霊術師は慄きます。長い長い彼の悲鳴が、この奇妙で素敵な物語の開幕の合図です。
コミュ障である主人の代わりに弱りきったスノウリアの世話を焼くのは、コミカルで優しい生屍(アンデッド)の使用人たち。恐ろしい見た目ながら生者よりもあたたかい彼らの待遇により、スノウリアは久々に人間としての尊厳を取り戻します。そして長らく生きた人間と接することができなかったデュレインもまた、少しずつ変わろうとしていく。ささやかな毎日を送りながらだんだんと距離を縮めていく二人の様子にはほっこりしてしまいます。
しかしやはり、多くの問題が二人をそっとしてくれるはずもなく。王女を執拗に追う継母の魔手は、確実に森へと迫っていました。また同時に、デュレインとアンデッドたちの間にある、強くも危うい絆についても開示されていきます。このまま引きこもってはいられないと読者がおろおろしているうちに、戦いの火蓋はすっぱりと切られてしまうのです。
時には多くの代償を払いながらも、スノウリアに味方すると決めたデュレインとアンデッドたち。万一の時は命に換えても恩人である彼らを守ると覚悟を決める王女。とくに優柔不断で頼りなかったデュレインの成長はめざましく、涙なしには見守れないほどです。
物語全体を貫くストーリーが見事なのは、他の方が仰る通りです。それに加え私が特に素敵だなと思った点は、「静と動」の書き分けでした。冷えた屋敷の中での交流を描いた前半は静謐で美しく、継母の軍勢との対峙を描く後半は炎のように激しく。優雅に紅茶を楽しむシーン、そして手に汗握るバトルシーンの両方を書くのが上手い作者さんがどれだけいらっしゃるでしょうか。脱帽です。
策略や死、そして遺されることの寂しさ。そんな重い素材を扱いながらも、死んでしまったのになお陽気なアンデッドたちにぐいぐいと引っ張られて進むお話は、とても読み進めやすいです。最初から「死とは…愛とは…」みたいな哲学が入ってくることはないのでご安心を(笑)。むしろそれは言葉で語られるものではなく、読み終えた時にはもうあたたかいスープのように読者の心に馴染んでしまっている。そんな不思議な感慨でした。
私たちとは切っても切り離せない「死」。それをどう受け止めるのかを力強く語ってくれた名作だと思います。
「コミカルもほっこりもアツいバトルも、全部盛りの作品ねえかなー」などと都合のよいことを考えているあなた…おめでとうございます、こちらがその作品です。ごゆっくりどうぞ^^