ヴィクターは、お屋敷のお嬢様に思いを寄せる庭師見習いの少年。お嬢様によく思ってもらおうと奮闘する姿は、空回りしているようでしんどくもあります。
そんな彼がハクビシンを追い払いヒヤシンスを助けたときのも、そんな日々の何気ない一幕だったはずです。ヴィクターが助けたヒヤシンスだという少女が現れなければ。
ラエラと名付けたヒヤシンスの彼女のおかげで、孤独で愛に飢えていた少年の運命が大きく変わります。いえ、二人で変えていったと言ってもいいかもしれません。
きっと、この出会いの日のことを、二人はいつまでも折に触れて語り合う気がします。
『愛の奇跡』とは、陳腐で滑稽に聞こえることも少なくないですが、これは間違いなく二人が起こした『愛の奇跡』です。
読み終わる頃には、花々に囲まれた素敵な庭の陽だまりの中にいるヴィクターとラエラの幸せな姿が目に浮かぶことでしょう。
素敵なちょっぴり大人の愛のおとぎ話、ぜひぜひ!!
スラム出身の少年ヴィクターは、立派なお屋敷の庭師見習い。自身の身分の低さを自覚しながらも、少年はお屋敷のお嬢様に淡い恋をしていました。
彼女のわがままな呼びつけさえも喜んでいたヴィクターでしたが、ある日ハクビシンに荒らされているヒヤシンスを見かけます。彼は憧れのお嬢様からの呼び出しというチャンスを捨て、その花を助けてやりました。するとなんということでしょう、自分はそのヒヤシンスだと名乗る美しい少女が現れて――という、おとぎ話のようなロマンチックな始まりの物語です。
ヴィクターの甲斐甲斐しいお世話によって姿を得たというヒヤシンスにラエラという名を与え、愛に飢えた少年はしばしの穏やかな時を過ごします。のんびりしたお姉さんのラエラに振り回されるヴィクター少年、かなり愛しいです(笑)。
ラエラには植物としての制限がたくさん残っており、そんな不便さもまたいっそう彼らの日常に愛しさを与えてくれます。この辺りをふわふわの独自論にしない作者さんなので、なんだか不思議系で説得力のない話はちょっと苦手…という方にも安心して読んでいただけると思います。
しかし物語はそう易々と平穏を与えてはくれません。多感な少年に容赦無く突きつけられる現実、そして心に刺さった棘は青年へと成長したヴィクターにも影響を与えます。そばで太陽のように微笑みかけてくれるラエラにもまた、思わぬ魔の手が……。
短い話数の間に、たくさんの優しさが詰まった物語です。一目惚れからはじまる運命の恋ではないけれど、誰かをまっすぐに見つめることでゆっくりと育まれていく愛。午後の日差しの中でまったりと楽しむお話としておすすめしたい一作です!