第28話 よ~し、王位を簒奪するぞ~
「なんじゃ。その協力してもらいたいことというのは」
「講和条約を結びたいのです」
とディモン王子は言う。
「ほっ、本当ですか?」
僕はあまりものの嬉しさで勢いよく食いついてしまった。
「はい。本当です。仮にお三方とやり合った所でこちらもただでは済みません。下手したら全滅ということすらあり得る」
「そうじゃな。オーガ一種族単体ならわしらに軍配が上がるじゃろうな」
と雪芽さんは頷く。
というか、中層のモンスターを相手取れる冒険者って上位三十パーセントくらいって聞いてたんだけど。
「はい。私共全員が挑んだとしても、負けるでしょう」
とディモンさんは言う。
「脳筋が国王をやれるなんて、オーガの国って気楽なのね」
「いえ。父上も戦力差を考えることくらい出来る筈です。でもあの変な仮面女が来た途端に正気を失ってしまったのです」
「私~、そいつに心当たりあるんだけど~。皆は?」
「深淵の遣いさんはオーガを利用して僕達を潰そうとしている?」
「いや。オーガが団結してきたところでわしらに勝てないぞ」
雪芽さんが言ってくる。
「でも……それならなんで深淵の遣いさんはオーガをけしかけるようなことをしたのでしょうか」
「わしらの交渉を妨害したいんじゃろうな。オーガと戦争したとなれば今後の交渉にも大きく響くからのぅ」
「確かに僕達の活動に大きく響きますよ。でも、オーガを犠牲にした作戦だと生態系が大きく変化する。リスクが大きすぎる」
そう。深淵の遣いさんはダンジョンの変化を避けるために僕達に攻撃を仕掛けてきた。なのにモンスター間の戦争なんて言う生態系が変化するようなことを率先して起こすだろうか……
「ありえない……」
「どうかしたのか? 孝雄」
「あの人の行動の意味が分からないんです」
「わしらを潰すため、じゃないのか?」
「でもデメリットが大きい」
「ダンジョンの環境云々のやつかえ?」
雪芽さんの言葉を首肯する。
「わしらの行動を止めることが先決だと思ったんじゃろう」
「それだと目的と手段が逆転するんですよ。僕達の交渉を止める理由はダンジョンの環境の変化を避けるためですから」
「う~ん。というか、それを今考えていていいのか? ディモンの言葉通りなら一刻も早く和平を結ぶべきじゃないかのか?」
「つまり孝雄はディモンが操られている可能性があるってこと?」
知里が僕の思ってることを口にする。
「ディモン王子の言葉が本心の可能性も十分ありえる。けど僕達を分断して、僕をピンポイントで叩けば交渉を打ち切らざるを得なくなる」
「人間側から見れば交渉を放棄したことになる、ということじゃのぅ」
「ディモン王子。あなたは僕を孤立させて殺そうと考えているんじゃないんですか?」
僕が言うと、ディモン王子は固まってしまう。
「いやいやいや。その根拠はどこにあるんですか?」
ディモン王子は露骨に狼狽している。
「やっぱり……」
「あなたには捕虜になってもらう。そして戦争を止めてもらうように交渉する」
「落ちこぼれの僕の命なんて安いもんですよ。むしろ戦争をするための口実が増えるだけでなんにもいいことなんてないですよ」
とディモン王子は言う。
「ふぅ~ん。これ、実はディモン王子操られていないかも」
美也さんが口を挟む。
「えっ? どういうことです?」
「あの仮面女に殺せって命令されてるならもうそろそろ攻撃しに来てても良いと思うの~。さっきみたいに指摘されてたなら猶更」
「それは演技してるんじゃ?」
「洗脳されている時ってね。すごく急かされる感じがするの~。それを抑えながら演技するなんて無理な話よ~」
美也さんが擁護し始める。
「皆さん。信じてください。僕はあなた達に協力してもらうためにかなりの危険を冒して来てるんですから」
「それじゃ本当に講和が目的ということですか?」
「はい」
とディモンさんが頷く。
「途中でまた疑われたらたまらないのでぶっちゃけることにします。僕は戦争を終わらせたい。そして、オーガ族の王様になりたいんです」
とディモンさんは僕らがなにも聞いていないのに言ってくる。
「どっ、どういうことです?」
「僕はおちこぼれの第二王子です。でも兄上が死んでようやく平和なオーガの国を作れると考えていました。けど、僕の弟の第三皇子の継承順位が繰り上げて一番になったんですよ。次男の僕を差し置いて」
「逆恨みですか?」
僕が問うと、ディモンさんの目つきが険しくなった。
「オーガってのは野蛮な馬鹿ばっかりですよ。少しでも腹立つようなことがあれば戦争を起こして……それで他の種族からは脳筋モンスターとか馬鹿にされる始末ですよ。オーガ=血の気が多いっていうイメージを払拭しなきゃドリアードのドリアと結婚することが出来ないんですよ。だから協力してくださいよ」
ディモンさんはやけくそ気味だった。
「惚れた女に告白するために戦争を終わらせようとするとは……よし。その心意気気に入ったのじゃ」
「ほっ、本当ですか……よかった~。僕が操られているなんて誤解された時にはどうなるかと思っていましたよ」
とディモンさんは一息ついていた。
「それじゃ早速で申し訳ないんですが、僕の顔を立ててもらえますか?」
「どういう意味です?」
「皆さんが僕に負けて捕虜になったっていう体で戦争を終わらせるんですよ」
「わしらが負けた体でじゃと?」
雪芽さんはディモン王子を睨む。
「そっ、そんな怖い顔をしないでくださいよ。僕を信用してくださいよ。ウィンウィンになるようにしますから」
ディモン王子は一瞬だけど、すごく悪い顔をしていた。
「私はどうも信用できない」
「でも~。このディモン王子は少なくとも洗脳されていないと思うの」
「ここで僕達が疑っていたら終わらせられるものも終わらせられませんよ」
「う~む、仕方ないのぅ。それなら囚われてやるわ」
「ありがとうございます。必ずや戦争を終わらせてみせます」
こうして僕達はディモン王子の捕虜になるのだった。
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