第27話 オーガと講和、どうしよう
支部長を含めた協力者を集めてハウスで話し合うことにした。
「ということで中層での攻略は順調とは言えないです」
「成程。久国君がそんなヘマをやらかすとは……」
「う~。もう起っちゃったことは仕方ないじゃない」
美也さんはやらかしに相当堪えているようで、唸りながら言う。
「仕方ないじゃないわ。おぬしが孝雄に発情せずに前を見ていれば起らん事故じゃったろうが」
「そう。美也さんが発情していたから起こしたミス。私がオーガの前で尻を叩いてあげましょうか?」
知里は手首にスナップを効かして虚空を叩く。
気合十分という感じであった。
「いや。王子様を殺したっていう国際問題だ。尻ぶちじゃ済まないね」
「くっ。なら磔にして差し出せばいいの?」
「そうじゃな。そうすればオーガ共の溜飲も下がるかもしれん。ピンク髪。お前の尊い犠牲は忘れぬぞ」
「ねぇ、二人共。ここぞとばかりに私をキルする流れで話を進めるの止めてくれない?」
「二人共。冗談にしてはひどすぎるよ。僕ももっと早く注意できていれば事故は起きなかったかもしれないしさ」
美也さんにヘイトが集中しているのは良くないと思った僕は助け舟を出した。
「なぜこやつを庇うのじゃ。まさかもうおぬしはこやつとまぐわったというのか?」
雪芽さんはとんでもないことを考えているようだ。
「違いますよっ。ここでいがみ合っていてもなんにもならないって言いたいんですよ」
僕の説得を聞いてくれたようで、引き下がってくれた。
「そうさ雪芽。私達で争っていても意味がない。だから例のを決めたんだろ」
「面白くないのぅ。知里とピンク髪は二人きりでいられる時間があったのに、わしだけないじゃないか」
「私は放課後いたいのを我慢してあなたに譲ってた」
「いやいやいやいや。無理あるじゃろ。それ。そういうならおぬしらが交渉している時もわしはずっと我慢していたんじゃからな。どう考えてもわしの方が少ないじゃろう」
「雪芽さん。そういう細かいことを気にしないのが大人だと思う」
それに対して雪芽さんは頬を膨らませて、
「それを言えばわしが許すと思うんじゃないぞ」
と抗議する。
「雪芽。落ち着いたら時間作ってやるから落ち着け」
「ほっ、本当かの?」
「ああ。坊やも不服はないよな?」
沙羅さんはここで断ったら許さないぞと圧を掛けてくる。
「はい。勿論です」
「よし。聞いたぞ。これで後で無しとか止めるんじゃぞ」
「はい。そんなことしませんよ」
「よしっ。それなら許してやるのじゃ」
雪芽さんはひとまず納得してくれたようだ。
「すみませんね。うちの者同士で揉めるのを見せてしまって」
「流石冴内君って所ですね」
「見た目は冴えないんですけど」
「血のお陰、ですかね」
支部長の目が鋭くなる。
「なにか言いました?」
「なんでもないよ」
と沙羅さんは取り繕う。
今気にしても仕方ないか。
「さて本題だ。どこかの馬鹿がオーガ族の王子を轢いた挙句殺した件で相手側は相当怒っている。下手したら戦争を仕掛けられる可能性がある」
「そうですね。どうにか避けなければなりませんね」
沙羅さんと支部長は顎に手を当てながら考え込んでいる。
「オーガ如きにビビる必要なんてない」
「駄目だよ。勝っても負けても損をすることになる」
沙羅さんが言う。
沙羅さんの言いたい損というのは恐らく三つある。
負けた場合。単純に全滅。
勝った場合1。中層の生態系に多かれ少なかれ乱れてしまうこと。
勝った場合2。僕達が武力行為による侵略をしたという実績を作るということ。
この2もかなり致命的だ。講和のための交渉の難易度が激増し、最悪交渉という選択肢が消失する。
百害あって一利なしという奴だ。
「しかし、戦争に突入する可能性はかなり高い。それにオーガ軍団が押し寄せて来てダンジョンから出てくる可能性も十分あり得る」
支部長の意見にも一理あった。
「ならダンジョンを封鎖するとかど~う?」
「冒険者からクレームが殺到する。それに生計を立てている冒険者のことを考えると……」
「封鎖する理由次第よ~」
「例えば循環を理由にするとか」
それを聞いた支部長は神妙な態度で頷いた。
ダンジョンの面積は狭いため、資源の枯渇するスピードが非常に早い。しかしそれを補う程再生スピードが早い。再生する時期を循環と呼んでいるのだ。
循環時期のためといえば少なからず、ダンジョンの冒険者は納得するだろう。
「それでお願いします」
「分かりました。ダンジョン封鎖を行い、目撃者が来ないようにします。ダンジョンでのことはあなた方にお任せしてもいいですね?」
支部長が言ってくる。
沙羅さんはそれに対してうんと頷く。
「じゃあ僕達は早速ですけど、交渉しに行くとしましょうか」
僕は雪芽さんと知里、美也さんの三人を引き連れて中層へと向かった。
中層オーガ領。
「あの馬鹿者め。この有事の時にどこへ行きおった」
「お隠れになりました。おそらくこの領を出て行ったかと思われます」
「なぜそんなことをしているのだ?」
王オーガに詰められた大臣オーガは頭を下げる。
「いい。奴を気にしている時間はない。軍の準備は出来ているか?」
「軍団の編成は終了いたしました」
「よし。奴らを打ち倒し、この中層と浅層を支配してやるのだ」
大臣オーガは御意と答えた。
中層。フロアパスポイント。
つまり中層の入り口付近。
一匹のオーガが僕達の前に立ちはだかってきた。
僕達は攻撃されてはたまらないと思い、迎撃姿勢を取る。
「待って。緊急事態だからお話をさせていただきたいと思い来たのです」
オーガは意外なことを言ってくる。
「緊急事態って?」
「はい。実は僕の父がオーガを率いて戦争を仕掛けようとしているのです。いや、下手したら軍団を編成して進軍しているかもしれません」
オーガは言う。
「あの。あなたは?」
「失礼しました。私はオーガの王子のディモンと申します」
「おっ、王子?」
僕は思わずぎょっとした。
「どっ、どうにかしましたか?」
「いえ……」
まさかここにあなたの家族の仇がいますよ~、なんて言えないよな~。
「のぅ、おぬし。このピンク髪がおぬしの兄? 弟を殺したんじゃが、こいつの命一つで矛を収めてもらうことは出来んかのぅ?」
雪芽さんは一切の躊躇いなく、美也さんを差し出した。
「ちょっと……一応協力し合う同士なのに~。なんでそんなにつんけんしてるの? 雪芽ちゃんをぼこっちゃったこと恨んでるの? それともまた奪われるって思ってる?」
美也さんは雪芽さんを挑発するようなことを言う。
「わしは事実を言っているまでじゃ」
「好き好きオーラ出過ぎって感じ~」
「美也さん。雪芽さんを怒らせるようなことを言わないでください」
雪芽さんをいじることに腹を立てたのが、知里が抗議してくる。
「知里ちゃん。モンスターなんて嫌いって言ってたのに随分変わったね」
「人間もモンスターも同じってことが分かっただけです」
「それ。他の人に聞かれなくて良かったね」
「止めましょう。ここで揉めても仕方ないですよ」
これ以上悪化するとヤバそうだから二人の間に割って入って止めた。
「ごめんなさい。ディモンさん。続きをお願いします」
「その。僕は兄さんのことは気にしてません。いや、気にしてないって言えば嘘になるんですけど……それより、そのせいで戦争することになるのが一番嫌です。なので皆さんに手伝ってもらいたいことがあるんです」
ディモンさんは僕達の方をじっと見た。
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