第5話 冴内孝雄争奪戦


 知里の槍から出てくる電撃と、雪芽さんの手から繰り出される氷雪。

 どちらも非常にレベルが高く、その上実力も拮抗していた。

 このままだと、知里か雪芽さんのどっちかが死ぬ。


「待って。二人共ストップ。これ以上争うのは駄目だって」

「なんでこいつのこと庇うの? 孝雄君のお嫁さんだって思い込んでるイカレストーカーなのよ」

「わしはストーカーじゃないし。孝雄はわしのこと、かわいいとかって口説いてきてるもん。むしろ、孝雄の方がストーカーじゃし」


「孝雄君は彼女の私ですらちゃんと褒めたことないのよ。妄想拗らせないでよ」

「あっ……ああ……」

 二人の戦いはむしろ激化していた。


「どっ、どうしよう……」

 今の僕の力じゃ止められない。

 と、僕がそんなことを考えていた時。

 天井が突然赤く燃え始めた。それと同時に二人の間に巨大な炎の壁が作られる。


「やめっ」

 沙羅さんが二人の間に割って入って争いを止めてくれたのだ。

 本当に神様みたいな人だ。


「沙羅。邪魔をするでない」

「あなたもまさか孝雄君の知り合いですか? そうじゃないなら邪魔しないでください」

「分かった。あんたらの関係の邪魔はしないからさ。とりあえず今日のところは引き上げてくれないか?」

「そこのイカレ女をぶっ飛ばすまで引けません」

「雪芽、諦めろ。割に合わないかもしれないが、こいつと争うのはもっと面倒だし」


「お菓子。孝雄」

 と雪芽さんは駄々を捏ねている。

「孝雄はお菓子をくれようとしたり、プロポーズしてきたり……わしのことを弄ぶんじゃあ」

 雪芽は大粒の涙をこぼしながら泣いていた。


「この女の敵。孝雄君を殺して私も死ぬ」

 とんでもない修羅場展開!


「坊や。雪芽になにをしたんだ?」

 これを見ていた沙羅さんは僕のことを軽蔑した目で見てきた。

  僕は沙羅さんに耳打ちで事情を話した。


「なるほど。それは迂闊だったね。名前は妖怪にとって大事なもの。異性の姓名を自分の名前に混ぜることは、人間でいう所のプロポーズみたいなものなのさ」


「いや。それにしたって受け入れるの早すぎじゃないですか」

「そう言われればそうだ。雪芽がいくらちょろいからって会って数日の奴と結婚する程じゃない」


「どうしたらいいでしょう」

「チョロイン化している理由が分からないからね。責任を取るしかないんじゃない?」

「でも。僕、今栗谷と付き合ってて」


「そこの雷娘か。坊やはその子のこと、どのくらい好いているんだ?」

 僕は付き合う経緯に関しても、沙羅さんに全て話した。

「このぽんこつが。スパイしろっていうのに、二股してるってどういう話さ」


「全部裏目に出るとは思わなくて」

「雷娘は私達のことを狙ってる。しかも私達と近いレベルの使い手か」

「はい」


 と沙羅さんと話していると二人がこちらのことを睨んでくる。


「ああ、孝雄。今度は沙羅を口説いておるのか? このすけこまし。淫獣」

「孝雄君。私というものがありながら新しい女の子に手を出すなんて最低」


「いや。そういうわけじゃ……」

「なんで沙羅と内緒話をしておるのじゃ」

「そうですよ。私達のこと、飽きちゃったんですか?」


 雪芽さんと知里の二人が一緒になって詰めてくる。


「いや。そういうわけじゃ……」

「はっきり言ってやれ。坊や」

「いや。その、言いたいことは特になくて」


「言いづらいなら言ってやる。あわよくば二人と付き合いたいってな」

「いやいやいや。沙羅さん。話が飛躍しすぎですよ」

 僕は沙羅さんに話の修正を求めるが、ガン無視してきた


「普通なら彼女の雷娘の方を庇うんじゃないのか?」

「いや。それは……」

 これで知里の方の味方をしたら、雪芽さんのことを裏切ってしまう。


 沙羅さんは僕の心の内を知って、二股させて情報収集させようと考えているのかもしれない。

 僕が気付いたことに沙羅さんも気付いたのだろう。

 僕の頭に胸を乗せ、抱き寄せてくる。


「それとも第三の選択肢で私なんて選んでみるかい坊や?」

「あの。いやっ、ええと……」

 沙羅さんは僕のことを見て面白がっているようだ。


「待て沙羅。おぬしのそれで誘惑するのは卑怯じゃ。それにわしが連れてきた時はちっとも興味なさそうな素振りをしていたではないか」

「どういうこと? まさかその女の人のお家にもお邪魔したわけ? その癖に私のことを口説いてきたわけ?」


 沙羅さんの言葉に二人は最悪な方向でヒートアップしてる。

「違う。これは沙羅さんの罠だ」

「酷いな、坊や。私の好意を無下にするなんて」

 耳を甘噛みしながら囁いてくる。


「ふっ、不埒じゃ」

「そうですよ。私だってまだこんなことしたことないのに」

「悔しいなら坊やに色仕掛けでもなんでもしてみな」


 その言葉を聞いた二人は、

「乗った。わしはその勝負に乗ったぞ、沙羅」

「はい。私もです。孝雄君の心を取り戻して見せます」

「面白くなってきた。じゃあこれから冴内孝雄争奪戦のルールを説明する」


 沙羅さんは自分の思惑通りになったという風な顔を見て笑ってきた。

 あの、景品である僕の考えは何も聞かれていないんですけど……



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