第19話 新たなる不安
この間締結したゴブリンとコボルト、そして沙羅さんと僕とで、種族間の講和条約を締結するための話し合いが設けられることになった。
会場はゴブリンの巣の中にある王城の中にある円卓でだ。
「今回の両者の不安は下層にいた私達が揃ってしまったことにある。その不安を払しょくするために、講和条約を結びたいと思っている」
沙羅さんが話を切り出した。
「講和条約を結ぶ? 我々二種族を支配下に置くのではなく?」
「私達はこの浅層にいる者達を支配下に置くつもりはない」
「そうはおっしゃられますが、我が巣ではあなたの使者様がそれとは反対のことをしてきたのですが……それに関してはどういう考えがおありで?」
アヴェクさんは沙羅さんの言葉を信用していないようだ。
「今回の件も踏まえて、私達はこの浅層にいる二種族の代表であるあなた方と講和条約を結びたいと考えている」
「講和条約を結びさえすれば、このような事態はないとでも?」
アヴェクさんは更に沙羅さんを追及する。
「私達三人の名前を持って条約を締結する。そのためこの講和条約を破ろうとする者が私達の側から現れた場合、全力で止めることを書面で約束しよう」
「なら、仮にだ。三人とも、私達を滅ぼしてしまおうと考えたらどうなる? そうなれば講和条約を結ぶ意味などないではないか?」
と
「ない」
と沙羅さんは言い切る。
「なにっ!」
「そうなったら人間達は緊急性の高いイレギュラーと判断して、ダンジョンを閉じようとしてくる可能性がある。つまり、共倒れになるということだ」
「しかし話が結びつかん。それと講和条約を結ぶことに何の関係がある」
「今回講和条約を結ぼうと使者を派遣した理由だが、あなた達がモンスターの巡回数を増やしたことが原因だ」
「それはあなた方がどう動くかが分からなかったからで……」
とアヴェクさんは言い淀む。
「当然のことだ。しかし、それでどうなるかというと人間がイレギュラーだと判断する。最悪の場合、さっき言ったように共倒れになる可能性が高い」
「あなた方は警戒した私達を安心させるために、講和条約を結ぼうと提案したということですか?」
「ああ」
沙羅さんはアヴェクさんが理解したことに満足したようだ。
「ようすれに余達が不安がって普段と違うことをすると人間が怪しんでダンジョンを閉じようとしてくるから講和条約を結ぼうという話か」
と
「そういうことだ。この講和条約は私達が共倒れしないための約束事だ。だから安心して欲しい」
「そういうことなら喜んで応じましょう」
「それなら余も」
こうして沙羅さんの説得に二人が応じ、無事に締結されることになったのだった。
「次は人間と不可侵条約と講和条約を結ばなければいけないってことですかね?」
「ああ。向こう側の様子を見ていくしかないね」
ギルドマスター。オフィスルーム
「これを見てくれないか?」
白衣を着た老人は乱暴なノックをしながら入ってくる。
そして分布を書き込んだマップをオフィスルームの中にあるデスクに置いた。
「いきなり来てなんです?」
ギルドの支部長は、いきなりの来訪に面食らっていた。
「これはモンスターの分布図さ」
「石ケ谷市の? 確か魔英傑がいるダンジョンだとか……」
「そうだ」
「それがなにか?」
「これを見てくれ」
「よくある分布図にしか見えないと思いますけど。ゴブリン種は西側、コボルト種は東側に生息するっていうのは前から変わっていないですよね?」
「生息地が変わったとか、そういう話じゃない」
「じゃあ、どういうことです?」
「これが一週間前の分布だ」
と老人は分布図を叩きつけた。
「だからなんで同じ紙を何枚も出すんです?」
「同じ紙じゃねぇ。今出した紙が魔英傑討伐作戦を行う前の分布図だ」
「あれ? 今、見ている紙が一週間前のですよね。そしてさっき見たのは?」
「今日取った分布図さ」
「二種のテリトリーが綺麗に分かれている?」
「そう。不自然なくらいにな」
「偶然なのでは?」
「偶然にしてもだ。綺麗すぎないか、この分け方は」
「まさかモンスターの中に頭のいいやつがいて、そいつが軍団を率いて外に出ようとしているっていう話ではないですよね?」
「そうだよ。理解が早いじゃないか」
「でも。そんな頭の良いモンスターなんています?」
支部長は問いかける。
「ここにはいるだろう。魔英傑っていう奴らが。あいつらは他のモンスターと格が違う。知性も高い可能性がある」
「魔英傑が外に出るために浅層のゴブリンとコボルトを取り込んだということですか?」
「俺の予想が正しければ、だがな。イカレ博士の狂言だよ」
と皮肉気に言う。
「正直に言えば話が飛躍していると思います。博士。引き続き、モンスターの生態を調査していただけますか? 私の方でも調べてみますので」
「唯一のダンジョンを失う訳にもいかないもんな」
「ええ」
と支部長は返す。
「そういうことなら早速取り掛かるとするよ。あんたの思うような結果が出るといいな」
「博士。こちらの方でも調査チームを派遣したいと思います。協力していただけますね」
「そういう命令ならそういう風にするさ」
「それでお願いします。荒巻博士」
支部長は頭を下げたのであった。
「それじゃ早速仕事に取り掛かるとするぜ。あんたの方も準備が出来たら連絡してくれ。それじゃ」
と言って荒巻は部屋を出て行った。
「ああ~。もし、ダンジョンのモンスターが凶暴だったらどうしよう~」
支部長は最悪の事態を考えて、落ち込んでいたのであった。
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