第18話 尻ぶち外交
「知里。君の言う通り、一人で来たよ」
僕はコボルトの巣を抜けて森の奥まで来た。
知里はコボルトの子供を抱きかかえながら僕のことをじっと見てくる。
コボルトは子供を人質にしているのか?
「ああ、孝雄。会いたかった」
真剣なトーンの僕と対照的に、知里のテンションは高かった。
目からハートが飛び出てそうな感じだ。
彼女は子供を手放し、僕に飛びついてくる。
「知里?」
「ねぇ孝雄。そこのミニコボルト君に入り口を見張らせているからさ。しない」
「するってなにを?」
「えっ? セッ〇スだよ。孝雄は私の恋心を弄ぶ悪い人。だけど許してあげる。だって、私のことを可愛いと言ったから」
「いや、待って。それだけで舞い上がってるの?」
「私を押し倒して野獣のような欲望をぶつけてきた。そして私はそれを受け入れた。することと言えばセッ〇ス」
確かにあの時、熱に浮かされていた感覚があって記憶が曖昧だ。
だけど、そんなことを言っていただなんて。
「待って、知里。一回落ち着こう?」
「いやだ、する。孝雄が悪いんだよ? あの時傷ついていた私に優しくするから」
「あの時って……」
全く思い出せない。
「雷霆を手に入れた時、私は仲間を失った。それでショックを受けて冒険者を辞めようとしていた。その時孝雄は私に優しい言葉を掛けてくれた。死んだその人のためにも戦わなきゃって」
それを言われて僕は思い出した。
公園に落ち込んでいた冒険者の女の子がいて、その子に励ましの言葉をかけたことを。
「それで私は決意した。モンスター達を絶滅させるのが仲間のためだって。そしたらきっと、孝雄も褒めてくれるかなって。だから私は頑張った。仲間殺しって馬鹿にされてもっ!」
「確かに僕は言った。けど、モンスターにだっていい奴はいる。知里、死んだ人のために頑張るのと、モンスターを無差別に殺すのは違う」
「私、ずっと頑張って他の! なのに孝雄はモンスターと人間が分かり合うって言い始めるの? おかしいよ」
知里は大粒の涙をこぼしながら怒鳴る。
興奮状態らしい。
「女王様を泣かせるなっ。このにんげんめ!」
ショタコボルトは僕のどてっぱらにタックルをしてくる。
「ポチ助! 来ちゃ駄目!」
「でもこの人間は女王様をなかせました。しんえーたいとしてぶっ倒します」
「ポチ助。駄目。これは私達の問題だから。だから外に出ていて」
と知里はポチ助に少しだけ優しい表情を見せている。
ポチ助は知里の命令に従い、入り口の方へと向かっていく。
「知里。モンスターにだって良い奴もいるだろ?」
「ポチ助のことなんてなにも思ってない」
「知里……知里もモンスターだってそれぞれだって分かってきてるんじゃないのか?」
「もううるさい! 孝雄は私のことだけ考えてればいいの。私のことを滅茶苦茶にすることだけ考えてればいいの! それで私がママになって、孝雄がパパになって! 二人で幸せになる。私、それさえあれば後はどうでもいいの」
知里は興奮していて、まともに話ができる状態じゃなかった。
うだうだ考えるな。どうにでもなれ。
「なら知里! 尻を出せ!」
「後ろからがいいの?」
知里は僕がすると思ってたのか、ノリノリでお尻を見せてくる。
下着越しとはいえ、なんかドキドキしてくる。
蠱惑的だった。
やばいやばい。なんか僕も頭がバグってきた。
けど、ここで知里の言う事を聞いて既成事実を作ってしまったらゴブリンとコボルトの講和が出来なくなるかもしれないんだ。
お尻に負けるな。僕!
気合を入れるために自分の頬を叩こうとフルスイングして平手打ちする。
しかし、僕の手の位置が悪かった。
偶然にも、フルスイングした平手打ちは知里のお尻に当たったのだった。
「へっ? 孝雄?」
知里は想定外のことにショックを受けている様子だった。
知里の、怯えと驚きが混ざっている表情にくすぶっていた嗜虐心みたいなものがくすぐられた。
「へへっ、いいね。可愛いね、知里」
興奮に任せてぽろっと呟いてしまった。
「たっ、孝雄? どっ、どうしたの?」
「どっ、どうしたって……」
「孝雄。また、鎧みたいなの付けてる。そっ、そんなので叩いたら、私死んじゃう」
ビクビクする知里はなんかとても可愛い。
可愛い。
「知里。もっと叩かせて欲しい」
「いやっ!」
知里は雷霆を出して、僕に抵抗してきた。
僕は雷霆の雷を躱し、知里の懐に飛び込む。
「いやっ。こんな怖いの孝雄じゃないよ」
そう言われた時、僕は正気を取り戻した。
ごめん、知里。そう言おうとしたが、いいことを思いついた。
知里の価値観をバグらせるのだ。この時だけ、モンスターが善で人間が悪だと。
変態モード、続行だ。
「よし。捕まえたよ知里」
「助けて。助けてポチ助!」
知里の善悪はバグったようだ。
ポチ助に助けを乞う。
入り口で見張っていたポチ助は、女王である知里の悲鳴を聞きつけて駆けつけてくる。
僕が変態行為をしようとしていることに怒りを抱いたポチ助は僕の腕に噛みついてくる。
「じょほうさまをはなせっ。ふぇんたいやほぅ」
子供とはいえモンスターの膂力。この変態モードじゃないと、激痛で死んでしまいそうだ。
「ふぅ……ふぅ……ポチ助君。君、知里のことをどう思ってる?」
そういう風に聞くと、ポチ助は噛むことを止めた。
「じょっ、女王様は雷をピカピカ操ってて強い。それに大人には結構厳しいけど僕たちみたいなこどもにはやさしい。だから、多分、きっといい人」
「ポチ助君。人間には君の仲間を殺す悪い奴らもいる。その人達に関してはどう思う?」
「それでも女王様はいいひと。そんなの関係ない。それより、変態。女王様から離れろ」
とポチ助君は抗議してくる。
「知里。これでも一括りにしてモンスターを殺そうとするのか? ポチ助君はモンスターだ。同じコボルトを沢山殺されてることも知ってるのにだ。それなのにまだ、君はモンスターは全部敵だって言うのか?」
「違う」
「知里。今回は僕が悪かった。けど、コボルトに権利を返してあげてくれないか?」
「うん。分かった」
「おい、変態人間。女王様に無礼を働いたんだ。土下座しろ」
「確かに。孝雄は私のお尻をぺんぺんして酷いことした。土下座しなきゃ許さない」
「分かったよ。するよ」
僕は知里に土下座するのだった。
それを見た二人は僕の後ろに回り込み、尻を見た後ニヤニヤと笑う。
「よし。いっせ~ので」
知里とポチ助は僕のお尻を思い切り蹴り上げた。
知里はモンスターと初めての共同作業をした。
それは僕の尻をしばくことだったのだ。
その後はというと、あっという間に話がまとまった。
知里は
それと同時にゴブリンとコボルトとの間で講和条約を結ぶための会議が行われることになった。
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