第22話 トンでもサディスト


 地上に戻った時、僕は衝撃の事実を知った。支部長の淫行疑惑。

 更にそれだけじゃない。知里も襲われて入院しているという。

 石ケ谷市市立病院。401号室。


「知里? 体は大丈夫なの?」

「大丈夫。だけど、支部長が辞めさせられちゃったせいで講和条約を結ぶことができなくなった」

 と知里が告げる。


「後釜の人は当然……」

「モンスター壊滅派。美也さんが上層部に働きかけたんだと思う」

「あの人が? いくらやり手でも冒険者でしょ?」


「あの人は色々な所にコネを持っている。大企業のご令嬢だから」

「それで事件をでっち上げて石川支部長を退職させた」

「交渉はもう……」


「不可能だと思う。私が、コボルトとの事で揉めなければ違っていたかもしれない。本当にごめんなさい、孝雄」

「もう過ぎたことを悔やんでも仕方ないよ。後は僕達でなんとかするから知里はゆっくり休んでて」


「でも孝雄一人でどうするの?」

「沙羅さんと話し合って作戦を考える。いつも通りね」

「でも今、ダンジョンは封鎖されている。一般の冒険者では入ることはできない」


「なんで?」

「イレギュラーが発生して、ダンジョンを閉じることになったから」

「そんな……」


「それじゃ、沙羅さんと相談することも……」

「いや。入ることはできる」

「えっ? ダンジョンを閉じる部隊の中に入ってしまえばいい」

 知里の言葉に僕は思わず目を見開く。


「どうやって?」

「ダンジョンを閉じる行為には千人とかそこらの規模で行われる。一小隊分の枠は用意できた。入ってきなさい」

 知里に指示されると、女子二人が入ってくる。


「栗谷先輩。私達に用事って……」

 男女の内の内気な女の子がおずおずと言ってくる。

「あなた達に命令します。この人をバレないようにダンジョン内の指定の場所に送り届けなさい」


「そんなの無理ですよ。小隊単位で指揮されるんですから単独行動はできません」

  もう一人の少女も知里の言葉に抗議する。

「できるできないじゃない。やれっ!」

 知里は威圧感あるオーラを放って後輩達を脅していた。


「知里。流石に脅すのはこの子達には酷じゃないかな?」

「大丈夫。この子達は私に脅されるだけで気持ちよくなれるように訓練してあるから」

 えっ? 今の単語、すごく不穏なんだけど。


「ああ……栗谷先輩の睨み。すごくぞくぞくする。ねっ!」

「うん。体の芯を貫かれるようで……とても素敵!」

 二人は僕の理解できない世界にトリップしているようだ。


「分かりました。補給班に志願して、荷車を持ち出します」

「ありがとう。孝雄のことをよろしくね」

「分かりました」

 と元気な子の方が威勢よく答えた。








 僕達は彼女達の小隊の協力を得て、ダンジョンに入ることに成功した。

 人気のない所まで行ってもらい、僕は荷車から出る。

「協力ありがとうございました。このご恩は必ずお返しします」

 僕は礼をした後、急いでハウスへと向かった。





 ハウス。

「へへっ。化け物姉貴。これ、圧倒的敗北って奴か?」

「くっ、下らないことを言うでない。わしらが負けたらこの子達がどうなるか」

「そうだ。ここで負けたら私達のやってきたことが全部無意味になっちまう」


 ジャッジと雪芽さん、沙羅さんの三人が美也さんと戦いを繰り広げていた。

「これは……どういうことですか、美也さん!」

「あら? あなたは確か知里ちゃんのフィアンセだとかなんとか……彼女、本当に男を見る目がないわね~」


「なぜこんなことをしているんですか、美也さん!」

「それが仕事だから~」

 美也さんは僕が見切れないくらいの速度で駆け出し、ジャッジを急襲した。


 ジャッジは対応できず、打ちのめされる。

「まだまだ……」

 美也さんは次に沙羅さんを狙う。


「はやっ!」

 沙羅さんの守りをぶち抜くほどの強さでぶん殴る。

 沙羅さんは大きく吹き飛ばされて倒れる。


 それでも勢いは止まない。

 雪芽さんを狙っている。

 それが分かった僕は雪芽さんの前に立ちはだかる。


「皆さん。今度は僕の番です。僕が、必ず美也さんを追い出します」

 と宣言した瞬間、美也さんは躊躇することなく僕の顔面を殴りつける。

 僕は雪芽さんの横を抜けるようにぶっ飛んだ。それだけじゃなく、ハウスの岩盤を砕きながら吹っ飛んでいく。


 雪芽さんから距離を離された!

 僕は急いで美也さんの下へと駆けつけた。

 力はいつもの何倍も出ていた。さっき、死んだかと思うくらいの痛みも無くなっている。


 手の方を見ていると籠手のようなものが装着されている。

 僕は、あの時みたいに覚醒したようだ。

「正体を現した、か」


「美也さん。四対一は流石にきついでしょう? 諦めてかえっ」

「え~、聞こえない~。私、モンスター語なんて嗜んでいないからさ~」

 彼女はためらうことなく僕を殴る。


「良い音。グ~ッド」

 ショタコボルト君に噛まれたのと比べ物にならない。人生で体験したことのないレベルだ。

「おい女。わしが殴られてやるから、孝雄には手を出すでない」


「全員平等に虐め殺してあげるから安心して。ジャッジ、あんたもよ」

「姉貴。私はよぉ入ってからあんたに負けて、ずっと惨めだった。ママとは会えないしな」

「冒険者を辞めて本国に帰りなさい」


「その前に、日本のママを守らなきゃよ。一生悔やんでも悔やみきれねぇ。それに私を好いてるチビもいるんだ。あんたにビビッてるわけにはいかねぇよ」

 ジャッジも立ち上がる。


「そうだ。イカレサディスト女。私達が組めば最強。あんたにも負けないぜ」

「あ~、そう? でも、その判断死ぬほど後悔するわよ?」

 美也さんの目つきが変わった。

 

 ターゲットは僕だ。

 近づいた瞬間、一気に殴ってくる。

「なんかいい。男が弱ってく姿って最高!」


 あれ? なんかヘイトが僕に向いてやいませんか? 

 他の三人もなんか動揺しちゃってる。

「もっともっと。ケイデンスあげていくわよ~」


 なんかキャラが変わり過ぎてるよ。

 やばいよ、この人。

 僕が脳内で台詞を吐いている時も、彼女は殴り続ける。

 本当に人を殴ることを楽しんでいるどうしようもない変態のようだ。

「良いマゾサンドバッグ君ね。私、こんなに頑丈な人を殴ったのは初めてよ」


 美也さんは僕のことを殴るのを止めて、キスしてきた。

 大人の方のをだ。

「にゃっ! おい、変態サディスト女。わしらがターゲットではなかったのか?」


「いや、だって。あんた達弱いんだもん。でも孝雄君は殴る度にセクシーなフェロモンを出すし、反抗的で調教のし甲斐があるんだもん。私、初めての恋ができるかもしれない」

 なんというか、彼女こそ本当のモンスターではなかろうかと思えてきた。


「疑問に思っていたんだが、あんたはモンスターに憎しみを持っているんじゃないか? モンスター壊滅派ってのはモンスターを許さない派閥だろう?」

 沙羅さんは問う。


「派閥自体はねぇ。私は虐め殺せればなんでもいいかなって思ってたからそんなことは考えてなかった」

「孝雄を殴らせてやるからダンジョンの破壊をするのを止めてくれないか。後、石川支部長を元に戻してやってくれ」

 沙羅さんは沙羅っと僕のことを売った。


「勝手にそういう話を作らないでください」

「取引成立~」

「ありがとう」

「でも……ギルド側、特にモンスター壊滅派を黙らせるためには中層の攻略が必要になる。そこの所は覚悟しておいた方がいい」

 美也さんはそれを告げると、ハウスから消えていった。

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