第21話 モンスター壊滅派


 ハウスに向かう道中。

「彼女は久国美也。モンスターを最も憎み、日本中のダンジョンを全て封鎖しろと主張するモンスター壊滅派さ」


 支部長は美也さんのことを軽く説明してくれた。

「美也さん。僕達の行動に目を付けたということでしょうか?」

「君達のしようとしていたことに感づいていたというよりは、私に接触する人間がどういう人間かを確かめに来たという所だろうね」


「どういうことですか?」

「私は彼女達と対立するダンジョン温存派だ。しかもギルドの支部長ということでそこそこの権限も持っているしね」


「僕達のことを調べるつもりで接触したんですね」

「恐らくね。けど、彼女は怪しんでいるだけで決定的な証拠はないから強硬策を取れない筈だ」


「でも。近くにいたということは盗聴している可能性も普通にありますよね?」

「オフィスルームでは絶対に盗聴できないようにしている。それに防音だから外から聞き耳を立てることも不可能だしね」


「それなら僕達で話を進めることは出来そうですね」

「ああ。きっとうまくいく。私達の利害は一致するはずだ」

 僕達もそれを確信していた。

 だから支部長をハウスに連れて来たのだ。



「沙羅さん。連れてきました」

「ああ、坊や。今はタイミングが……」

「うん? たっ、孝雄。孝雄が帰ってきたぞ」

 雪芽さんは僕が入ってきたのを見るや否や抱き着いてきた。


「なっ? 淫乱雪女。孝雄から離れて」

「いいじゃろう。おぬしはこの二週間、さんざん孝雄とイチャイチャしたんじゃろ? それならわしにも少しくらいいいじゃないか?」


「それは駄目。不倫になる」

「なら、まぐわったのかえ? 孝雄と?」

「やった。ちょうやりまくった」


「その割には孝雄はわしのことを全然拒否してこんが? スッキリしてるなら拒否の一つや二つできるのではないか?」

 確かにお恥ずかしい話だが、ここが頑張り時だと思って抜いていなかった。

 覚醒して以来、ただでさえ性欲が強くなってきているのに、ここで雪芽さんに誘惑されるのはすごく辛い。


「その、雪芽さん。これから重要な話をするので離れてください」

「いやじゃ。今日は二週間ぶりじゃぞ。わしは孝雄と一緒にいるんじゃ」

「雪芽さん。お菓子を持ってきましたから」


「わしはそんなちょろい女ではない。わしだってな、ジャッジに甘えられるだけじゃなくてな? おぬしにな。たまにな……」

「孝雄。この魔女の言う事を聞いてはいけない」


「それは……分かってるんだけど……」

 雪芽さんが僕の両手を凍らせてきて、無理やり離れないようにしてきたんだ。

「なっ? その手があったか?」


「知里。感心してないで助けて」

「坊や。雪芽と一緒に出席するんだね。雷娘ばかり構ってないで、そっちも構っておやり。それでもかなり我慢しているっぽいんだからさ」

「わっ、分かりました。でも、雪芽さん。凍傷しそうなので、解除してくれませんか?」


「分かったのじゃ」

 僕は手の感触を確かめる。

 数秒経つと、手のかじかみがすぐに取れた。

「それじゃ。話に入るとするかのぅ。ええと……おぬしは何者じゃ」


 落ち着きを取り戻した雪芽さんが話を切り出す。

「失礼しました。改めまして。私は石橋純一郎と申します。冒険者ギルド石ケ谷市支部の支部長をさせていただいております」

 

「ほぉ~、そうか。わしは氷雪の雪に発芽の芽で雪芽じゃ。で、隣のが沙羅双樹から二文字抜き出して沙羅じゃな」

「人間の文化が堪能でいらっしゃいますね」


「ふふん。どうじゃ? わしは賢い女ぞ。孝雄や」

「凄いですね、雪芽さん」

「もっと褒めてもいいぞ。それと、抱っこするのじゃ。わしを膝に座らせぇ」


「えっ? ひっ、膝に?」

「いやなのかえ?」

 上目遣いで言われる。


 僕はそれに折れて、雪芽さんを膝に乗せることにする。

「孝雄や。ハグしてもよいのじゃぞ」

「あの、雪芽さん。話し合いが進みませんのでこれ以上は」

「仕方ないのぅ」


「孝雄。後、淫乱雪女。絶対に後で殺す」

 知里は僕達に対して濃厚な殺意を向けている。

「とても仲の良いことですね。さて、率直に言うと私自身もあなた方と講和条約を結びたいと考えている。魔英傑、失敬。お二方はどうお考えになられているでしょうか」


「私としてもそういう風に話を進めようと思っていた。正直、ギルド側からそういう話を振っていただけるのは非常に助かる」

「そうですか。それなら契約内容を詰めて行きましょう」

 僕達は契約の内容を話し合った。


 お互い不利にならないような内容になったため、合意することにした。

「では。私はこれで失礼します。栗谷さん、私のことを送り届けてくれますか?」

「はい。分かりました。孝雄も行くよ。いつまでもベタベタしてないっ!」

 知里が僕を引っ張ろうとすると、雪芽さんもそれに対抗する。


「駄目じゃ。おぬしは引っ付きすぎじゃ」

「講和が成立すればあなた達が外に出ることもできる。その間まで孝雄は私のもの」

「でも。今日だけはわしに譲るんじゃ」


「孝雄は駄目。淫乱雪女に毒させない」

「いや。あの……二人共落ち着いて」

「雪芽。そんな駄々をこねるんじゃないよ。お客さんをお待たせするなんて失礼じゃないか」


「でも~」

「いやいや、お気になさらずに。栗谷君。今回は雪芽さんに譲ってあげなさい。彼女と冴内君はご無沙汰していたそうだから」

「おお……支部長は気が利くのぉ」


「今後ともよろしくお願いします。なにか困ったことがあればすぐに駆けつけますので」

「おお~、それは頼もしいのぅ」

「さて。栗谷君、一緒に帰ろうか」

 支部長はそう言うと、知里と一緒に帰っていった。


「雪芽、あんた。本当にどうしたの? 最近おかしいよ。まるで覇龍王様に出会った時みたいじゃないか」

「う~ん。あのお方みたいに強いオーラは出ておらんがな。雰囲気はなんとなく似ておるのじゃ」

「おいおい。それは過大評価にも程がある。坊やがあのお方と似てるだって? 馬鹿も休み休み言いな」


「ええと。覇龍王様っていうのは?」

「なんていえばいいのか。あんたらの所で言う所の神様、みたいなもんじゃないのかな?」

 沙羅さんは僕が疑問に思っていることを疑問形で答えた。


「覇龍王様がダンジョンを生み出した。そして私達もダンジョンが生み出された時に生まれる。私達は覇龍王様の存在をなんとなく認識しているんだけど、正確な所は分からないんだよ」


「僕がそんな偉大な方に似ているなんて思えませんけどね」

「そうそう。雪芽がそんな風に拗らせたのはあんたのせいだよ。責任取りな」

「えっ! わっ、分かりました」


「じゃあ、孝雄や。今日はずっと一緒じゃな」

 雪芽さんは僕の手を氷漬けしながら言ってくるのであった。







 ギルドに帰る道中。


「無事に講和出来てよかった。それにあのお二方はとてもお美しい。寵愛を受けている冴内君に嫉妬してしまうくらいだよ」

「支部長。私のことを応援してください」

「うっ、うん。そりゃ栗谷君のことを応援するよ」

 知里に追い詰められた支部長は苦笑いしていた。


「支部長。知里ちゃんとダンジョンなんかに潜ってどうしたんです?」

 二人が話している時、美也が二人の前に歩いてくる。

「君。私のことを付けていたのかね?」

「そんなことより、あなたのしていたことを教えてください。隠そうとしているってことはやましいことって認識でいいですか?」


 と美也が問い詰めてくる。

「やましいことなんてしてないよ。栗谷さんと一緒にダンジョンの調査をしていたんですよ」

「女子と二人で、ですか?」

「君は何が聞きたいんです?」


「いえ。失礼いたしました。それで、結果はどうでした?」

「良かったよ。だから……」

「そうですか」

 美也は固有オリジナルスキルを発動した。


「支部長。逃げてください」

「栗谷君!」

 知里は雷霆を発動させ、支部長を庇った。


「知里ちゃん。無理すると死ぬよ」

「なら諦めてくれませんか? 美也さん」

「それは無理ね」


「残念です」

 知里と美也は槍と拳を交えたのであった。

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