第13話 ゴブリンサイド


 将軍ジェネラルゴブリンはコボルトが領土に接近してきていることに頭を抱えている。

「彼の三人が浅層にお揃いになっていることが大きいか」

「お父様。あの方達の使者がいらっしゃいましたわよ」


 大将軍ジェネラルゴブリンの娘であるラティナは弾んだ声で言う。

「人間に好奇心を持つことは否定しないが、警戒は怠るなよ」

 とラティナを諫める。


「もちろん。分かっていますわ。けどどのような方なのかしら。楽しみですわ」

「こほん。あくまで大将軍ジェネラル家の一員として礼節を持って出迎えるように。機嫌を損なったら我々の一族が滅ぼされかねないからな」


 使者と、その後ろにいる者達に相当気を揉んでいる様子だ。

「お父様。これ以上待たせるのはなんですから早く行きましょう」

「うむ。そうだな」








 僕はゴブリン側の状況を探る使者として巣にやってきた。

 モンスターの巣というとかなり粗野なものを想像していた。けどバリケードや門などがあったことは驚きだ。


 僕が巣の門の前で待っていると、迎えのゴブリン達がやってくる。

 人間から奪った装備で武装しているゴブリンが、姫様や将軍様みたいなゴブリンを護衛していた。 


「私は大将軍ジェネラルゴブリンのガザッグです。そして私の娘のラティナです」

 将軍様と思われるゴブリンが発言した。

 意外と好意的で僕は驚いてしまった。


「歓迎ありがとうございます。僕は三人から派遣された死者の冴内孝雄です」

 と僕は姫様と将軍様に一礼した。

「サエナイタカオ様。ようこそゴブリンの巣にいらっしゃいました。交流を持った記念に巣を案内した後、我らが巣の主に謁見していただきますがよろしいでしょうか?」


「はい。かなってもないことです」

 この後、僕はガザッグさんに巣を案内してもらう。

 アリの巣みたいな地下を掘ったようなものかと思っていたけど、掘立小屋が多くあった。


 露店や公民館のような公共施設があり、意外と文明的な基盤は整っていた。

 このようなことがなぜ今まで発覚しなかったのかは疑問であるが、講和条約を結べそうだと思っていた。

「町があるなんて思いもしなかった」


「建物は人間が時々立てるものを参考に試行錯誤しながら開発しましたから」

「木材はどこから調達したんですか?」

「コボルトと交易して手に入れたのです。東側には森があるので」

「森、ですか」

 確かにダンジョンの東側には木々が群生しているというのは聞いたことがあったけど。

 

 ゴブリンとコボルトが交易するなんて……互いに交渉する基盤は整っているのか?

「ゴブリン側は木の代わりになにを提供しているのですか」

 僕は知的好奇心を満たすために、ガザッグさんに質問した。


「私達は加工した石を提供しています。こういう感じの」

 露店で売っている包丁を一つ手に取って、僕に見せた。

 この加工技術は弥生時代とかの石包丁に似ていた。


 ゴブリンの知能は人間より数段低いと思っていた僕はこれにはかなり驚かされたのであった。

 もうここまできたら肌や骨格の違う人間といっても過言ではないかもしれない。

 コボルトとの件が解決したら人間側にこれを伝えて攻撃してもらうことを止めてもらわなければ……



 案内を終えた後、僕はキングゴブリンと謁見することになった。キングゴブリンは普通のゴブリンより大きい大将軍ジェネラルゴブリンより更に一回り大きかった。


 ゴブリンというより、オークやオーガに近い感じがした。

「初めまして。僕は冴内孝雄と申します。以後お見知りおきを」

 と僕なりに礼儀正しい挨拶を心がけた。


「余はキングゴブリンである。お三方はダンジョン内でも指折りの強者だ。私達としても、良き関係を築きたいと考えている」

「はい。よろしくお願いします」


「にして使者殿をもてなしたいと考えている。何日ほどいることができるかな?」

「僕は……」

 と言った瞬間に考え込んだ。


 なんにも連絡を取らずに一週間とか休むのは不味いんじゃないのか? 

 いや。ここで交渉が失敗してダンジョンが閉じられることの方がもっとまずい。

「どうなされたかな?」

「一週間ほどここを見て回ろうかと」


「一週間ですか。分かりました。では案内と世話はラティナに。大将軍ジェネラルよ。不満はあるまいな?」

「いえ。偉大なお方の使者の世話に付けてラティナも光栄かと存じます。使者殿。娘に無礼がありましたらすぐにお申し付けください」

「いえ。大丈夫です。ラティナさん。よろしくお願いします」


「はい。よろしくお願いします」

 と柔和な笑みを浮かべた。

 肌の色が緑色なこと以外はほとんど人間のように見えた。

  そんな美少女の笑みに僕は少しドギマギしてしまっていた。






「ここが客間でございます」

 とラティナさんは言う。

「ありがとうございます。ラティナさんもお疲れさまでした」

「あの……使者様」

「孝雄でいいですよ」


「タカオ様。もしよろしければ人間界でのお話を聞かせてもらうことはできませんか?」

「大したお話はできないかと思いますよ?」

「人間の文化などに興味があるのです。しかし人間と話す機会なんて今までありませんでしたから」

「僕でよければ話し相手になりますよ」

 ゴブリンが意外に、人間にも好意的でよかった。


 こうして僕達は一緒の部屋に入り、人間の文化や生活について、話をすることになったのであった。

 しかし、これが後に講和条約において致命的なことになるとは今の僕達にはわかるわけがなかったのだった。



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