第29話 精神崩壊ビデオレター作戦


 ダンジョン中層。オーク領。

 王の間。

 そこには戦争の準備をしている王オーガと深淵の遣いさんがいた。

「父上。戦争は終わりました」

 ディモン王子が僕達を引き連れて、高らかに勝利宣言をする。

 しかし深淵の遣いさんはなにか驚いているようだった。


「なにっ? お前一人でお三方に勝ったというのか?」

「ええ。偉大なる雪の女王とその従者達に華麗に勝利してやりましたよ」

 ディモン王子の言葉に対して、王オーガは感動している。


「おお。あの軟弱者がここまで立派になって。兄の死でお前も立派になったのだな」

「兄上の死に報いるため、この勝利を父上に捧げたいと思います」

「俺は誇らしい。これで俺達はダンジョン最強に成り上がったのだな」

「いや、待った。おかしい。これは明らかにおかしいですよ」

 と深淵の遣いは抗議してきた。


「なにがおかしい」

「その人は下層でも上位の実力者です。オーガ一体で勝てるレベルの者ではない。それにその傍にいる者達だってオーガ一体に負ける程弱くない」

「それはオーガに対する侮辱か?」

「いや。覆せない種族差というものが……」

「ディモンよ。実力でその者らを屈服させたのだろう。なにか恥ずかしいことの一つや二つでもさせたらどうだ?」

「くっふふふ。なら三回回ってアンアンと吠えてもらおうか。発情期の雌犬のようになぁ!」

 とディモン王子は雪芽さんの方を指さしてきた。

 雪芽さんは恥辱に耐えながら三回回ってアンアンと言った。

 彼女は顔を伏せたが、横から見ても分かる程に顔が真っ赤になっていた。


「ふふん。それなら次は第一王子を殺したそこのピンク髪の身柄を渡せ」

「それに対してはノーです。王よ」

「なに? 俺に逆らう気か?」

「ええ、そうです。よいか、皆の者。俺はそこのオーガなんかより遥かに強い雪の女王とその従者を従えているのだ。この意味が分かるか?」


「まっ、まさか王子は謀反を起こされるつもりか?」

「さぁ。俺に付け。そして王オーガを監禁しろ」

 とディモンが命令する。


「なっ……そんな馬鹿な」

 王オーガが狼狽している。

「本当になにが起こっているんですかこれは」

 深淵の遣いさんも動じていた。


 あっという間に形勢逆転した結果、ディモン王子はオーガ領を占領してしまったのだ。




 翌日。

 僕達はディモン王子と話し合うことになった。


「協力ありがとうございました。これで無事に戦争を終わらせることができました」

「そうじゃな。わしらとしても戦争に反対しているおぬしが玉座に座ってくれていた方が都合がよい」

「じゃあ。講和条約を結びましょうか……」

 と僕が話を進めようとする。


「いいでしょう。しかしこれから仕掛ける戦争に関しては非干渉を貫いてもらって欲しいのです」

「これから仕掛ける戦争?」

 話がきな臭くなってきた。


「ええ。私は森の妖精。ドリアードを戦争で撃ち滅ぼします。その間、見て見ぬ振りをして欲しいのです」

 とディモン王子は言ってくる。


「ディモン王子。なぜドリアードを攻略しようとしているのです」

「それを聞くのは野暮っていうもんでしょう」

「わしらは全てのモンスターの平和を望んでおる。協力することはできんな」

「ふぅ~ん。それは残念ですね。それなら講和条約を結ぶことはできませんね」

 とディモンは言ってくる。


「こいつ!」

 知里はこの卑怯なディモンに対して露骨に腹を立てていた。

「これはあなた方にとってもメリットのある話なんですよ? だって、ドリアード族と講和交渉をする手間が省けるわけなんですから」

 とディモンは言う。


 確かにそうだ。理屈だけ言えば。僕達は戦争の実績を作らずに、ドリアード族を統合したオーガ族と講和を結ぶことができる。

「確かに僕達にとっては得な話でしょう。でも、僕は理不尽な侵略を許すことができません」

 と勢い任せに言った後、はっとした。

「孝雄や。よく言った。理不尽を嫌うお前はとてもカッコいいのじゃ」

「そう。それでこそ孝雄」

「そうね~。私的にも敵側の甘い話に乗っちゃうちょろい奴はダサいって思うかな~」

「みんな……」


「残念ですよ。僕はあなた方のメリットになると思ったのに」

「僕達はドリアード族に付きます。理不尽な侵略に断固抵抗します!」

「おい。やれ!」

 ディモン王子が呼ぶと、オーガ達が出てくる。僕達はオーガ領から勢いよく逃げ出した。







 ダンジョン中層。ドリアード領。


 僕達はドリアードに急いで事情を説明した。

「オーガ族にそんなことが……」

 ドリアード達は驚愕していた。


「ディモン王子って、私にご執心なんですよね。オーガと交流した時、あの人私のことすごいエロい目で見て来て。それが本当に気持ち悪くて……」

 とドリアードの一人は体を震わせていた。


「まさかディモン王子はあなたと結婚するために侵略戦争をしようとしているということですか?」

「多分、ですけど……」

 とドリアさんは言ってくる。


「そういうことなら一つだけ良い方法がある」

 と知里が言ってくる。

「いい方法って?」

「恋する男女にはNTR」

「寝取り、かのぅ。わしらもそこの淫乱ピンクにやられたからのぅ。派手にやり返してやるとするかのぅ」

「う~ん。私にやられたことを生かせてよかったね~」

「うるさい。吠えるな淫乱ピンク」

「そうじゃそうじゃ。このド変態ピンクが」

「うわ~二人共怖いよ。孝雄君。ああ~、癖になる匂い~」


「抱き着きながら発情するな」

「孝雄はデレデレするな、なのじゃ」

 と二人は僕と美也さんに怒りを向けている。


「あの~。どうするつもりですか?」

 ドリアさんは動揺している。


「ねっとりNTR」

「精神崩壊ビデオレター大作戦」

 二人はディモン王子の精神を破壊することをとても楽しみにしているようだった。




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