第31話 洗いっこ
「さっ、殺人鬼がやってきたぞ」
「ゴブリン利用して佐藤と五田ぶっ殺したって本当かよ」
「美少女連れ回してモンスターぶっ倒しまくってるってマジかよ」
「やべぇ~。陰キャっつか、猛獣じゃん」
噂に尾ひれがつきすぎて凄く怖い。
僕が教室に入った途端、いきなり静かになり始めるし。
「おはよう孝雄」
「ああ。おはよう知里」
「孝雄。皆に注目されてる。なにかした?」
「いや。なにもしてないけど……」
「クールビューティーな栗谷さんと普通にコミュニケーションを取ってやがる。やっぱりあいつ、まともじゃない」
「もしかして……手籠めにしたって本当?」
「あいつ。超猛獣じゃん。やべ~」
僕と知里が話をしたせいで悪い方向で盛り上がってる。
「なに変なこと言ってるの?」
知里はこそこそ噂話をされるのが堪らないようで、生徒達の方を睨みつけた。
「いや……なっ、なにも……」
「私と孝雄は付き合ってる。それ以外は全部嘘」
「いや。付き合ってることもうそでしょ……」
と言ったけど、知里の圧力が強すぎた。
「そんな……鉄壁の栗谷さんが陥落してるなんて。あいつのどこにそんな魅力があるんですか?」
「ドスケベ。強い。優しいetc」
「ドスケベ?」
「強い?」
生徒達は知里の言葉に困惑しているようだ。
僕自身も困惑しているんだから当然と言えば当然か。
「ふぅ~ん。強くて、ドスケベか」
胸を露出したナルシスト気味な不良三人組が僕の真後ろに立っていた。
「俺達よりセクシーで強いっていうのか? さえないく~ん」
「いや。僕はなにもいってな……」
「くらえっ。マッスルセクシー鈍器」
不良の一人がかばんで僕の頭を叩いた。
「えっ?」
「鉄アレイ三十キロを仕込んだ必殺の鈍器攻撃を食らっても無傷だと!」
「えっ? 鉄アレイ?」
全然痛くない。
美也さんのパンチと比べ物にならないや。
「えっ、ええと。止めとかない?」
「うるせぇ!」
不良は僕をぶん殴ってきた。
しかし……
こっ、これ……大袈裟に吹っ飛んでおいた方がいいのか?
「あっ、あぎゃああ」
棒演技をしながら大袈裟に吹っ飛んで見せた。
「俺のパンチはメガトン級よ」
「よっしゃ~。マッスルセクシー組が淫獣冴内を倒したぞ!」
「ウィィィィ」
不良は僕を倒したことにかなり興奮していたようだ。
というか、僕を心配する奴は誰一人もいないの。
「犬っころ以下が。焼いてやる!」
ブチ切れた知里は雷霆を発動させようとする。
流石に不味いと思った僕は、知里をなんとか宥めたのであった。
放課後。
「あいつらはコボルト以下だ。優しくしてやる必要はない」
「まぁまぁ。そんなに痛くないし大丈夫だよ」
「普通に考えてあれは通報してもいいレベル。普通に退学。悪ノリに度が過ぎてる。止めない馬鹿な生徒達もそう」
知里は皆のことで相当腹を立てているようだった。
「まぁまぁ」
「そう。私は結果を重要視する系女子だから」
「うっ、うん」
「で、私達付き合って三年経ったわけだけど、いつ結婚する?」
「勝手に歴を追加しないで」
「やっぱりあの不良共焼き殺す?」
「わっ、分かったよ。結果が重要だね。結果が」
僕の言葉に満足したのか、知里の放っていた怒気は薄れていった。
「冗談はともかくとして、いつ結婚する?」
「いつって……成人してからじゃないの? 今考えても仕方ないよ」
「意外と真面目……孝雄、本当に考えてる?」
「えっ。いや、そういうわけじゃなくて……」
「ふふ。焦らなくてもいい。成人するまでに孝雄が私にメロメロになればいいから」
知里は機嫌を良くしたようでにこりと笑った。
「先の事ばかり話してても疲れるしさ。遊びにでも行かない?」
僕は話題転換を試みた。
「孝雄逃げた?」
知里はやや不服そうな表情をしていた。
「いや。そんなことはないよ」
「そう? それなら買い物に付き合って」
「分かったよ。なに買いたいの?」
「今後の戦いに活かすためのガジェットを作りたいと思ってる」
「ガジェット?」
「例えば自分の身体から発生する電気を利用して電磁浮遊するタレット。電気を利用することで強化される外骨格。今後の戦闘に備えて超パワーアップする」
すっ、凄い。男の子魂がくすぐられる。
「よし。是非行こう」
僕は知里の提案に喜んで賛成した。
が……
「嘘。そんなパワーアップイベントはこのラブコメでは後回し。第一にすべきことはヒロインレースで確実に勝利。すなわち既成事実づくり!」
と知里は息巻いていた。
僕は彼女に騙されて実家に連れて行かれることになったのであった。
「ねぇ知里。僕のわくわく心を返してよ」
「孝雄。あなたは今日天国に行くの。きっと楽しいわよ」
「僕を変態教祖に差し出す気?」
「あなたは私のもの。私以外の誰にも触れさせない。さぁ、私の家へ行こう」
「いやっ、まだ。僕達、そういう関係じゃ……」
僕は抵抗するが、知里の力が強すぎてまともに抵抗できない状態だった。
僕は車に縄でくくられたかのように引きずり回された。
凄まじい勢いで知里の家へと入っていく。
「孝雄。安心して。今日二人共家にいないから」
「いや。もう、知里の目が鋭すぎて怖いよ」
「今、部屋に案内する」
知里に部屋を案内される。
中に入った瞬間、僕は言葉を失った。
僕は部屋の衝撃的な仕様に驚いてしまった。
ピンク色のライト、ピンク色の寝具、調度品などで構成されている。
これ、女子高生の部屋? と答えたら百パーセントの人間が絶対に違うというはずである。
「ねぇ、知里。本当に普段からこの部屋で勉強してるの?」
「しっ、してる」
知里は口笛を吹いて誤魔化そうとしているが、誤魔化せていない。
「学習机すらないんだけど?」
「けっ、結果が重要。私は現にすべての教科で九十点以上を記録してる」
「よくこの部屋で集中できるね」
「そういう話は後でいい。今お風呂場に案内する」
「いや。もう、ガチで狙いに行ってるじゃん。男の僕でももうちょっと回り道するよ」
「私は孝雄と付き合うことになってから早くセッ〇スしたいと思っていた」
最早隠す気はないな。
「いや。流石にシャレにならないよ。これは急ぎ過ぎだよ」
と言われて知里は少し押し黙った。
「ねぇ。私、そこまで魅力ない?」
「そういうわけじゃなくて……」
「打算で私と付き合ったこと、許したけど正直言って怒ってる。孝雄には賠償して欲しい」
「だとしても。そんな理由でするなんて不誠実だよ。結果だけじゃなくて、過程も大事にしてよ」
「それなら、私と一緒にシャワーして」
「えっ? なんで?」
「カップルらしいことさせて」
「それなら店で買い物とか?」
「普通って嫌い。私は孝雄と肌を重ねたい」
「はっ、裸は駄目だよ」
「水着着るから」
「そっ、それなら?」
それならいいのだろうか。いや、でもこれ以上拒否するわけには行かないし。
こうして僕と知里は一緒に風呂に入ることになった。
けど、いざ入るとなると恥ずかしくなってしまった。
洗いっこなんて出来ず、僕達はただ水を浴びていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます