第一章  ― 6 ―

 (おはようございます)

 「おはようございます」と挨拶があった。どこから聞こえてきたかが判らず、ふと頭を上げた。誰もいないはずのこの部屋で、朝の挨拶が聞こえるなんて。と、思ったら。

 テレビの番組が、変わっていたのだった。


『八時になったのだろうか』


 時間を教えてくれることはなかった。司会者が、挨拶に続けて、世間話を始めた。続いて順に今日のコメンテーターを紹介して、今日のトップニュースになる話題が始まった。


『全国で、突然目が見えなくなった事象が、多発なんていう話題にはならなかった』


 政治腐敗の話が始まった。少し前から現職総理大臣の贈収賄事件の報道があって、総理大臣と贈賄側の人物の一挙手一投足を、大型のモニター画面を使って、説明をし始めていたのだ。

 大型のモニター画面なんか、見られる訳がなかったのだが。

「次は画面の右上ある、このメモをご覧ください」

 という言葉を聞いて、大型のモニターを使って説明をしていることが、判っただけのことだった。



 (残念なことに目が見えなくなったのは、自分だけみたいだ)

 落胆した。全国で、突然変異が起き、人々の目が見えなくなり、パンデミックになっているのかと、身勝手な想像をしてしまったのだった。

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