第三章  ― 6 ―

 (電力の供給が止まった)

 恐れていた事態が起こった。

 心臓が、バクバクと大きく鼓動していた。

 心臓の鼓動音が、部屋の隅々まで響き渡るのではないか、というくらいに、大きく感じた。


『水なしで、生きられるのは、2~3日』


 水道水だけで、あと、どのくらい生きていられるか。最後の一ヶ月という時間の間に、電力の供給が止まった。


『もう終わりなんだ』


 自分の寿命が、もうすぐ、そこにあることを、あらためて突きつけられた。


『もう終わりだ』

『死ぬのだ』

『息絶えるのだ』


 二度と、絶対に経験ができない事象が、これから、自身の身に起きるという怖さを感じて、震えが止まらなくなっていた。



 (身体が震える中)

 今まで、生きてきた過去を、思い出していた。

 ただ、一言で過去を振り返るなら、何もしてこなかった。それに尽きるのだった。


『薄っぺらな、人生だったな』


 頭が、痛くなってきた。



 (落ち着くために、外の空気を吸う)

 久しぶりに、窓ガラスを開けた。

 心地よい陽ざしが、全身を包んだ。


『よかった。太陽が出ている時間に、生きていることができていて』


 太陽光の暖かさのおかげで、少し、落ち着くことができた。

 冬は、気温が下がり、寒い季節なのだが。

 湿度が低く、乾燥しているおかげで、空気は澄んでいて、青々とした空が広がり、遠くの山並みが、綺麗に見ることもできる。


『冬は、嫌いな季節ではないのだ』


 むしろ、夏の強い陽ざしに、痛さを感じるほうが、不愉快に感じていた。


『この国土は、春夏秋冬、四季がある』


 一年を通じて色々な様相を見せてくれる。


『素晴らしい国土と自然を持っている』


 この国土の住民であったことに、誇りを感じ、嬉しくも感謝をしている。

 ただ、もっともっと、この国土の四季を、津々浦々、たくさんの場所で、味わいたかった。


『もう。そんな時間は、ないな』


 冬の暖かい陽ざしを、全身に浴びながら、そんなことを考えていた。


 そして


          《静かに窓ガラスを閉めた》

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