第二章  ― 2 ―

 (テレビ放送が)

 テレビの放送が、細切れのように、なっていた。先ほど話をしていた女性アナウンサーから、また男性アナウンサーに変わった。最初に緊急事態を告げた男性とは違うアナウンサーだった。ただ、内容は先ほどと同じく119番通報システムがつながらない状況が続いているという話だった。



 (隣の部屋からうめき声と叫ぶ声が)

 アパートの隣や下の部屋から、うめき声や叫ぶ声がした。

築年数は、三十年を有に超えている、古いアパートだったが、隣や下の住民の声が聞こえてくることは稀だった。

 住民が、何かで爆笑するか、夫婦喧嘩をするときくらいで、それでもかすかに聞こえてくるくらいだった。

 普段の話し声なんかは、一切聞こえてこない。

 そんな住民のうめき声や叫び声が、今は、大きく、部屋に届いてきた。


『日本中で、失明している人が、続出し始めているのか』



 (外の状況はどうなっているのだろうか)

 ふと、部屋の外の状況を知りたくなった。


『外には人が、歩いているのだろうか』


 もし歩いている人がいたとしたら。

 その人に助けを、お願いすればいい。

 そんなことを思いながら、テレビ台の左側にある窓ガラスへ向かった。

 手探りをしながら、やっと窓までたどり着いた。

 カギを開け、窓ガラスをスライドさせた。

 ひんやりとした空気が部屋に、はいってきた。もう何十年かぶりに綺麗な空気を取り込んだような感覚を覚えた。

 それよりもなによりも、顔にあたる、そのひんやりした空気と、かすかに暖かい太陽の光が心地よかった。


『まだ、生きているんだ』


 心地よい空気を感じながら、耳をそばだてた。誰かいるのだろうか。

 聞こえてくるのは、カラスの鳴き声だけだった。そういえば、今日はゴミを出す日だ。カラスは、そのゴミを目当てに集まっているのだろう。ゴミの収集は、通常通り行われているのだろうか。


『カラスの鳴き声さえ、今まで聞こえていなかったとは』


 窓ガラスを閉めてからも、カラスの鳴き声は、部屋の中まで聞こえていた。



 (車一台、まったく走っていない)

 四つ角にある、このアパート。毎日のように走る自動車やバイクの音が、部屋の中まで聞こえてくる。朝はどうだったのだろうか。

 今は、走っていないようだった。町からは音が消えてしまったのだろうか。



 (報道フロアーから)

 報道フロアーからのニュースは、続いていた。あいかわらず、同じことの繰り返しだったが、アナウンサーが変わったのだけは、判った。そんなにコロコロとアナウンサーは、変わるものなのだろうか。


『何人目なのだろうか』


 目が見えなくなったという現象は、伝染するのだろうか。今までのアナウンサーが全員失明したとしたら、テレビ局の他のスタッフも同様に失明をしている可能性があるのか。

 

『失明をする前の状況を思い出していた』


 職場へ行って、仕事をして、コンビニエンスストアに寄って家に帰ってきた。通勤は自家用車を使っている。

 

『そのどこかで感染してしまった』


ということなのだろうか。


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