第二章  ― 4 ―

 (身の回りの不安)

 実家は、どうなっているのだろうか。

両親ともに健在だ。ただ痴ほうが始まった母親を老々介護の父親が面倒を見ている。お互いに目が見えない状況だとしたら。

 ご飯を作ることも、食べることもできなくなっているのだろうか。

 電力の供給さえできていれば、水道水は、止まることはない。ガスも都市ガスだから少なからず供給は、し続けるだろう。

 ただ、目が見えない状況で、食材を探し当てて、刃物を持って、火をつけて調理するなんてできる訳がない。

都会の木密地域だ。火事になれば簡単に隣の家まで、飛び火するだろう。

119番通報システムが使えない今なら、その火災は永遠に消されることはない。自然消火を待つころには、目の見えない者が、逃げ惑うこともなく、何百人もの死者を出すことになるのだろう。



 (スマートフォンが鳴った)

 今朝以来、スマーフォンの存在を忘れていた。もう、必要ないと思っていた。

が、そのスマートフォンが、けたたましく振動した。

あわてて、スマートフォンを探そうとしたが、どこに置いたかわからなくなってしまった。振動する音の方向を探すが、テレビから流れてくる時報の音がうるさくて、方向が定まらない。テレビを消そうと思った瞬間。スマートフォンの振動も止まってしまった。

 もしかしたら、留守番電話サービスに、何かしらのメッセージを入れてくれているのだろうか。とも、思ったが。やはり、聞くことはできないと、あらためて感じた。


『誰からだったのだろうか』


 もう連絡しないでくれ、とも思った。



 (おなかがすいた)

 色々な状況を心配していたら、おなかがすいてきたのを感じた。

今朝起きてから、水すら飲んでいないことに気がついた。

 喉は、からっからの状態になっていた。

 こんなんでは、食べ物なんか喉を通るはずもない。


『水を飲みに行こう』


 台所に、這って向かい始めた。



 (水道の蛇口をひねる)

 台所にたどり着いて、やっと立ち上がり、ため息をついた。コップを探せない。


『上品に水なんか飲める状態かよ』


 そんな気持ちになり、蛇口を探し見つけたとたん、思いっきりひねった。

バシャバシャと音をたて、跳ね上がった水道水が、着ていた服を濡らした。

 手を洗い、手で水道水をすくい顔に目掛けて、水道水を押し当てた。

何度も何度も顔に水道水を当てて、これでもかというくらいに、顔を濡らした。

 まぶたに当たる水道水は、目を潤すことはなかった。閉じたままのまぶたに、

水道水は弾き飛ばされてしまってた。


『二度と、まぶたは開かないのだろう』


 そして、静かに水を飲んだ。

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