第一章  ― 7 ―

 (職場に、出社してくる)

 職場の勤務時間は、朝の八時半から十七時半までだから、もう、一番手が出社してきても、おかしくない時間だ。

 職場への連絡方法は、と、考えていたけれど見つかる訳がない。

スマートフォンは、完全にロックされている。連絡手段といえば、電話とeメールだと思いついた。

 電話は、スマートフォンが完全にロックされているから難しい。eメールは、上司と職場のインフォメーションアドレスに緊急事態を知らせれば、と、思った瞬間。


『あっ!』


 パソコンを使えばeメールで連絡が出来る。今まで気がつかないとは、と、笑った。



 (eメールで職場へ緊急連絡)

 会社のインフォメーションアドレスは、総務部が管理している。

 色々な内容のメールが送られてくると聞いていたから、いつでも読める状態で、ソフトを立ち上げているだろう。


『パソコンの電源をいれた』


 パソコンの暗証番号は、スマートフォンと同じように数字のみで組んであったので、簡単に起動することができた。

 いつも聞こえる音が鳴り、無事にパソコンが立ち上がったのを確認できた。



 (eメールソフトを立ち上げる)

 パソコンの右側にいつもあるマウスを触ったとたん、気がついた。

 マウスを使ってeメールソフトを立ち上げようとしたら、どこにあるのかが判らない。


『スマートフォンと同じであった』


 キーボードは触れられても、液晶画面に映される、アイコンは平面にあるため、どこにどう並べてあるかは、画面を見て確認するしかなかったのだ。


『笑って喜んだ自分を殴りたかった』


 これで、完全に外部との接触方法は、断たれたことになった。あとは、この部屋から、はい出るしか方法はない。


『起きてからの混乱で疲れを感じていた』

 

 暗闇の世界が広がっても、疲れは生じるものだなと、あらためて感じた。

 疲れた目を閉じれば、涙が目の周りを覆い、目の渇きを補い、それと同時に必要な成分も補充してくれると聞いたことがあった。

 ただ、今は、目が疲れたというよりは、身体全体が疲弊していて、少し頭が痛いという感じだった。


『いつになったら、目が見えるようになるのだ』


 そんなイラ立ちを覚えながら、ローテーブルに肘をつき、まぶたに手のひらをあてて、ゆっくり、まぶたと頬をこすってみた。


『なにも変わることはなかった』




 (テレビ番組の内容も変わっている)

 八時に始まったと思われるテレビ番組の内容も、気がつけば話題が変わり。もう、どのくらいの時間が経ったのか、判らなくなってしまっていた。

 こんなことにならなければ、いつもの通り職場に向かって、いつもの通り仕事をしている最中だったのだ。

 別に、仕事が好きな訳ではないのだけれども、今の状況を考えれば、仕事をしている方が、楽だろうなと感じていた。

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