第三章  ― 3 ―

 (無音の世界)

 誰とも話をしていないこと気がついた。

 仕事に行けば、電話でのやりとり、仕入れ先との打ち合わせ、部署間との打ち合わせと忙しくしていた。

 そして、いつも誰かと会話をして声を出していた。

 休みの日には、馴染みの喫茶店に入って、マスターと世間話を。夜になれば場末の一杯飲み屋で、着物姿のおかみと少々。

 こんなに人と話をしなかったのは、いつ以来なのだろうかと思った。

 部屋の外といえば、カラスの鳴き声以外は、何も聞こえなくなり。人工の音が聞こえない静かな森の中に入った気分になった。

 昨日は聞こえていた、うめき声も、今は聞こえない。アパートの住民はどうしているのだろうか。

 もうこの世界には誰もいなくなったように静まりかえっていた。


『窓ガラスを開けてみた』


 昨日の季節外れの暴風雨が嘘のように、冬の陽ざしが、心地よく身体にあたっていた。

 静かな住宅街。

 自動車やバイクが通らなければ、外からは、何も聞こえてくることはなかった。


『みんな、どうしているのだろうか』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る