第一章 ― 5 ―
(テレビは天気予報からスポーツニュースに変わっている)
今は、何時なのだろうか。
テレビ画面の左上に表示される時計は、いつもなら焦らすだけの表示にしか思っていなかった。
けれども、今は、その表示すら見ることができない。
(毎朝のルーティンは)
この天気予報のコーナーが終わったら、七時までの間に短いコーナーがある。そのコーナーが終わるか終わらないかのタイミングでテレビの電源を落として家を出る。
だから、朝七時の時報があるかどうか、どんな挨拶で番組が始まるのかどうかは、まったく知らないのだった。
『ただ、今日は今日で、神経が高ぶっているのだろう、まるっきり聞こえてこなかっ
た』
(職場に行けない)
いつもギリギリまで寝ている。やっとのことで、目覚まし時計のベルに叩き起こされ、バタバタしながら職場へ向かう。
今から出ても遅刻は確実だ。しかも、連絡をする手段を完全に失ってしまった。
『頭を抱えて、うずくまって、開かない、まぶたを強くつぶって開けと、願った』
願いは、通じる訳もなかった
(今は、何時なのだろうか)
もう何度も同じことを考えている。まぶたの中の状況は、まったく変わっていない暗闇の世界。
ほんの少しの灯りでも、目の中に入ってくれれば、少しは安心できるのだろうけど。
そんな期待は、まったくできない暗闇の世界だった。
世界なんてかっこいいものでもない。
ただ単に、《見えない》が、正しい表現なのだ。
まったく見えない状況に置かれても、朝起きてからどのくらいの時間が経ったのかを知りたいとは、人は、おかしな生き物なのだろうかと。
これは、自分だけなのだろうかとも、思ってしまった。
そして、今、何度目かの
『ため息をついた』
息を吐いたタイミングで
『涙があふれてきた』
そして
《泣いた》
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