第一章  ― 2 ―

 今朝は布団から、はい出ることはできた。

布団の上に居ることは、長年使ってきた布団の硬さで解っている。今は、布団おろか天井すら、見ることができなくなってしまったのだ。


『そう、両目のまぶたが開かず暗闇の世界が広がってしまったのだった』


 目の前にあるはずの、いつも見ている景色が、まったく見えなくなり、真っ暗となり、何もかもが暗闇に堕ちてしまった。

 手で顔を抑えても、まぶたをこすっても、まぶたの中の明るさは、変わることもなく、しつこく暗闇に、支配されてしまった。


『ずっと、目をつぶっている状態になってしまった』



 「俺、昨日家に帰ってきたっけ」

思わず、意味不明なことを、言葉にしてしまった。



少し間をおいて、昨日から今朝までの出来ごとを思い出すように、独り言を言った。


 「昨日は、仕事に行って~」

 「帰ってきて」

 「買ってきたコンビニ弁当を食・べ・た」

 「そして、シャワーを浴びて寝た」

 「そして朝になった」

 「目覚まし時計が教えてくれた・・・」

 「今は、朝だよな」




 (今は、何時なのだろうか?)

カーテンレールには、引っ越しをしてきてから、ずっと代り映えのしないカーテンが、掛かっている。

一度も、カーテンを閉めて寝たことがない窓ガラスから、今日も朝の陽ざしが部屋の中を照らしている。


『暗闇に陥った目の前の景色。五感が刺激されたのだろうか。頭や顔に当たる太陽の光が、強くも心地よく感じてきた』


 あらためて、目覚まし時計のある場所を見てみた。やはり時計が何時を差しているのかは、判らなかった。

 耳は、大丈夫のようだった。秒針が一秒一秒刻んでいる音が、聞こえている。

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