第2話

 疲れがたまっていたのか眠っていたようで、目が覚めると時計の針は4時を指していた。

 初夏の夕方四時、外はまだ明るい。


「あー、洗濯入れるか」


 干していた洗濯を取り入れ、日課の水撒き。


 散水ホースを伸ばし、庭の木々に水をやる。


 留守にしていたときは週に2回、お隣のたっくん(現在11歳)にみずやりを頼んでいた。


 もちろんお小遣いというか少ないながらアルバイト代みたいなものを払っていたけどね。


 そのみずやりのためだけに水道料金の契約は継続し、お金を払っていた。


 この庭は生前両親のお気に入りだったのだ。



 青々とした木々に水を撒く。


 散水ホースから飛び出した水は木々にかかり、太陽は葉についた水滴をきらきらと光らせている。


 水って地面を濡らすだけでいいのか、葉にもかけなきゃいけないのか知らないが大きな木の上のほうにもかかるようにいつも水をまいている。


 ほとんど人が通らない道のほうに撒いた水が飛んでいっても気にしない。



「!!?」


 ホースの角度をあげ、もっと遠くまで水が飛ぶようにする。


「水が塀の向こうまで飛んでいってる・・・・・・」


 さっきは見えない壁に遮られ塀の外に手を出すことができなかったのに水が塀を越えて外に撒かれている。


 急ぎ水を止め塀まで走り手を伸ばす。


「いてっ」


 またもや手は遮られ塀より先へ進まない。


「どういうことだ?」


 もういちど水を飛ばすと、水は見えない壁などないように飛んでいく。


「うーん」


 庭に生えてた長く伸びた雑草を手に取り、塀の上へ手を伸ばす。


「やっぱりだ!」


 草は塀の向こうへ難なく通過し、もっとと伸ばした草を持ったままの手は壁にぶつかってしまい手は草を取り落とす。


「俺だけ外に出られない!?」


 石を投げたり車に乗ったまま出ようとしたりいろいろ試してみた。


 石    ok

 ゴムボール-

 自動車  -

 草    ok

 木(枝) ok

 スコップ -

 バッタ  -

 バッタ(死骸)ok

 ビニール紐  -


 という結果が出た。


 見えない壁は塀の少し上くらいまでしかないのではと予想をたててゴムボールを真上に投げたらうちで一番高い木より少し上あたりで跳ね返された。


 車に乗ったまま出られるかとソロソロ車を出したら見えない壁にぶつかった。


 大した損傷はなかったけどバンパーが少しへこんだ。やるんじゃなかったよ。


 庭で捕まえたバッタを投げたら見えない壁にぶつかって跳ね返ってきた。


 しばらくピクピクしてたが、家に入ってビニール紐を取ってきて丸く束になっているほうを投げて試した後に見たら完全に死んでいた。

 なんとなくその死骸を外に向かって投げたら見えない壁を通過した。


「ということは生物は無理で死骸はおっけーってことか?でも草は生物といえるし、う~ん」


「機械は無理っぽくスコップもだめだったし、生物以外の自然物か?」


 スコップの先を持って柄の方を外に向けてだしたらすんなりすり抜けた。


「加工されたものは無理かとも思ったが、金属でできた先の部分は無理で木でできた柄はおっけーか」


 ふと思いついたことを試すため家に戻り、あるものを持ってきた。


「おぉ、予想は正しかったといえるかも」


 古新聞を縛るのはビニール紐より麻紐の方がリサイクルにはいいんじゃないかという勝手な想像で父が買ってきていた麻紐が役に立った。


 ビニール紐はだめで、麻紐は大丈夫と。ということは天然由来のものはおっけーってことか?


 いや、でもビニール紐も加工はしてるけど無からできたものではなく元を正せば自然にあるものからともいえる。よくわからん。


 とりあえず暫定自然に近いもので生物以外ってことにしよう。


「食らえ、竹箒ー! ぐはっ」


 車庫脇に立てかけてあった竹箒を勢いよく外に突き出したら、最初はよかったものの途中で引っかかった。


 よくみると針金で留めてあった場所が引っかかっている。



「すまん、君の犠牲は無駄にはしない」


 芋虫を捕まえてきて鎌で半分にした後外に放り投げた。


 残酷なことをしたかと一瞬考えたが、よく考えてみれば害虫退治でよく殺してるから気にするほどのこともなかった。


 そのままぼーっと外を眺めてたら、芋虫の半身が一瞬のうちに消えた。


 ん?っと思いつつ目をこらしてよく見てみる。


「あっ、今の何だ?」


 なんかピンクっぽいものが伸びてきて残りの半身に当たったかと思ったら、芋虫は影も形もなくなっている。


 ピンクっぽいものも見えたのは一瞬だ。


 そのまま見ているとガサガサという音とともに木の陰から枯葉を踏みしだいて小型犬ほどもありそうな黄土色をしたトカゲが顔を出す。


 あまりのでかさにびびって尻餅をつく自分。


 ドスンという音がしたにもかかわらず気にした風もなく、こちらにのそのそと近寄ってくるドデカトカゲ。


 2体の距離が3メートルほどに迫ってきたときドデカトカゲは走り出し、1メートルにまで近づいたとこで飛び掛ってくる。



 ベシャッて音が聞こえたと思う。


 瞑っていた目を恐る恐る開いてみると、開け放たれた家の門、その見えない境の向こう側でドデカトカゲがふらついている。


 そのまま呆然と眺めていたら、何かを吐き出し飛ばしたもののまたもや見えない壁に遮られている。


 見えない壁に安堵したものの、尻餅をついたまま視線を逸らさずに手でズリズリと後ずさり距離をとる。


 あっち行けとこころの中で念じつつ後ずさっていたが、ドデカトカゲはその場から動こうとしない。


 7メートルほど離れたところで立ち上がり、後ろも見ずに家へと駆け込み鍵を閉める。



 日が傾いてきたとはいえ、日が落ちるまではまだ少しかかりそうな時間だった。





 Utan>宇宙人に攫われたのかも


 nemi>なしてそう思うの?


 Utan>うちの周りが木々に囲まれてる


 Utan>住宅地とはいえんが、普通の田舎だったと思ったんだが


 Utan>頭おかしくなって記憶が変になってるか宇宙人に家ごと攫われて見知らぬ土地へ連れてこられたかとか考えた


 YasuK>せんぱーい そりゃあれっすよ 宇宙人とか時代遅れ 異世界転移っすよ 家の外よく見てみそ


 Kcho>それよりネット繋がってるってことは明日仕事問題ないってことだよな


 nemi>ひくわー


 YasuK>さすがにそれは俺もどうかと思うっすよ


 Kcho>実はお前たちに言っておきたいことがある


 nemi>?


 YasuK>?


 Utan>?


 Kcho>今日は休みだから言わんとこうとおもってたが、今朝クライアントから電話があった


 nemi>!


 YasuK>!!


 Utan>ま、まさか。嘘だといってよね


 Kcho>そのまさかだ、修正依頼だ


 Kcho>ちなみに俺は今まで軽く仕事してた


 YasuK>がー ここまできてそりゃないっすよー


 nemi>明日仕事問題ないってことだよな


 YasuK>せんぱーい


 Utan>鬼だ、ここには鬼しかおらんのか


 Kcho>でも頭変になったっていって病院行くっていっても家からでれんのだろ


 Utan>・・・





 家で一息ついた後に思い出した。


 車の出入り口がそのままだったことに。


 我が家はブロック塀に囲まれているが、出入り口はふたつ。玄関の前の門扉と車庫の前の門。


 門扉のほうは完全に外と内とは分けられておらず、人が抜けられないように狭いが

扉の下側10センチほどは開いている。


 とりあえず土嚢でもあればよかったのだが、肥料の袋をその開いた箇所に置き小動物も出入りできないようにした。


 問題は車庫のほうだ。車庫といっても一応屋根があるだけで部屋状にはなっていない。


 それはまぁいいとして問題はシャッター?だ。


 完全に外が見えない壁状のやつではなく棒が横向きに何本もあり、棒と棒との間も10センチくらいは開いているタイプだ。


 それを上に押し上げて開き、下に押し下げて閉じるといった風になっている。



 恐る恐るそちらに向かい車の陰から覗き見る。


「げげっ、まだいるどころか2匹に増えてる」


 さっきまで一匹だったドデカトカゲが二匹になっていた。


 それでもやるしかないと勇気を振り絞り、見えない壁の存在を信じつつシャッターを下ろす。


 バーとバーとの間の空白はどうしようもない。


 板でもあればふさげるかもしれないが、そんなものはない。


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