第13話

 今日は朝からみんなピリピリしてチャットでは悪口、不満のオンパレードだ。


 というのも、先日ネミさんが打ち合わせに出向いて先方さんの無茶振りを断ったはずなのに、その打ち合わせ後にこっちにひと言もなく営業の佐藤さんにその断った仕様変更を依頼し、佐藤さんも受けてしまったという事件があった。

 佐藤さんもネミさんと一緒に行って、無理だって説明したときに居たはずだろ。

 うちの課長もカンカンで佐藤さんに怒りの電話をかけたものの、営業の課長からなんとか頼むというメールを受け、しぶしぶ無茶振りを形にすることに同意したという経緯があり、みんなムカついてるし、焦ってるというわけだ。

 営業もなんでもかんでも先方のいうことにはいはいではなく、現場のいうことにも耳を傾けてくれよ。

 もしくはもっと人まわしてくれよ、派遣でいいから……


 こんな気分の日は仕事の進みもいまいちだ。

 メルモたちも気になる。

 自分に来客ではないといえ、家の前で立ち話をされていると気になってしまう。




「タロー、飯じゃぞー」


 呼ばれて台所に行くと、小さな体でお盆を運ぼうとしているメルモがいた。

 お盆の上には皿に乗ったステーキか?肉の塊と朝炊いて保温していたご飯が載っている。

 ちらっと見た台所には汚れたまな板と包丁が出しっぱなしで、肉を焼いた匂いも部屋にこもっている。

 ガスコンロの使い方を説明したが、換気扇を教えるの忘れてたわ。


 さすがに白飯と肉だけってのはおっさん的に健康が気になり、冷凍のミックスベジタブルをささっと炒めて味塩コショウで味付けし、肉の横に乗っける。

 ないよりはましだ。


 メルモに聞くと彼女たちと一緒に食事をとりたいとのことなので、折りたたみテーブルと椅子を用意していったらちょっときまずい。

 向こうは地面にベタ座りで焚き火で肉を焼きながら食べてるのに対し、こちらは椅子に座りテーブルの上に乗せたご飯と肉を食べてる。

 なんか上から下を見下してる気分だ。


「うまっ」


 フォーク一本で肉を突き刺し頬張っているメルモを前にこちらは箸で大きな肉の塊をつかみかぶりついている。

 なにこれ、めちゃうま!

 あのごつい恐竜の肉は硬いかと思いきや柔らかで、軽くサシの入った肉はほんのり甘く、塩コショウがアクセントとなり絶妙の美味さだ!

 肉を頬張り、飯をかっ込む。なんと至福だ。

 瞬く間に食べ終わってしまった。


 パチパチと音がしている焚き火を見る。

 結界は匂いは通すようで、肉を焼く香ばしい匂いに目が釘付けだ。

 その視線に気が付いたのか、ミリンが串に刺して焼いてる肉を手に取り、こちらに差し出してくる。


 ……あっ


 見えない壁に阻まれた肉は串が折れて地面に落ちてしまった。

 こちら側ではなく、あちら側だ。

 ミリンが手で押してみるも見えない壁に押し付けられ肉が潰れ形を変えるだけだ。


 ちっ

 生肉はよくて焼いた肉さえ無理なのか。

 加工品は無理って考えは正しいのかもな。


 残念そうな顔をした自分にメルモが声をかける。


「ほれ、あそこに肉はたんまりあるで、解体して渡してもらえばよかろう。冷蔵庫とやらに入れておけば長持ちするのだろ」

「そうだな、分けてもらおう。食料も乏しくなってきたし、それにこの肉はめちゃうまだしな」

「なにを言う、わらわが倒した肉じゃぞ! わらわのものに決まっておる! それを分けてもらうなぞといいおって」

「でも取りに出ることもできないし、彼らがそのまま持って帰ってしまってもどうにもならないぞ」

「ぐぬぬ……」


 彼女らに解体をお願いし、肉を分けてもらう。

 メルモもしぶしぶながら倒した恐竜の権利を譲り、彼らが牙を持ってギルドの依頼を達成することも了承した。

 ほんと納得いかんって顔してたけどな。



 追加で肉を焼いてきて自作の山椒の葉粉をふりかける。

 さわやかな香りに少ししびれるような辛味がこれまたうまい。


 ちなみに山椒の葉をレンジでチンしてパリパリにしたものを細かく砕いて粉にしたものだ。

 そしてしその葉(大葉)も同じように粉にしたものを湿気ないようタッパに入れて常備してある。

 メルモの肉にも少し山椒の粉をかけてやったら最初顔をしかめながらもうまそうに平らげた。



「でもよくここが分かったな」

「うむ、煙をみかけて、その方角を頼りに来たそうじゃ」


 あー、ごみ燃やしてたやつか。

 なんか白い煙でてたもんな。

 妄想してたら彼女らが騒ぎ出す。

 上を見て指差したと思ったら、走り出し木の陰へと隠れ、上方を見上げている。

 それに釣られ自分も振り向き上を見上げるとそこに……

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