第3話

 -翌朝-


「食パンがなくなった……」


 食パンを軽くトーストし、バターの塊を乗っけた後また軽く焼く。


 そして取り出した後にバターを伸ばし広げ、かぶりつく。


 飲み物はいつものように粉を入れまくったインスタントコーヒーだ。


 エスプレッソ飲めよといわれることもあるが、このインスタントがいいのだ。



 それはさておき、食パンの買い置きがきれた。


 普通ならスーパー、もしくはコンビニに買いに行くとこだが、今はここから出られない。


 そう、監禁状態ともいえる。


「とったどー」とかいうテレビ番組が思い浮かんだが、そもそも自然のある場所にさえ出られない。


 庭にはビワの木があるが、それもついこの前シーズンが終わって次は来年だ。


 後は山椒の木があるが、あれは薬味でしかない。


 母がよくそうめんを食べるときに庭に取りに行っていた。



「あっ」



 ふと思い出し、台所の戸棚の中を漁ったところ、古いもらい物の素麺が大量に見つかった。


 最低3年以上、10数箱保管されたまま放置してた。


 大古物こひねものをはるかに超えてるが、食えるのだろうか。


 まぁ、カビてなけりゃおっけーとするか。



 ちなみに親戚から安く買ってる米もあるが、もう少ししたら次の新米がでるシーズンになるので残ってるのは確か30Kgの紙袋がひとつだけだったはず。


 それと精米してあるのは残り1升程度かな。



「あーっ、精米機がない……」



 近所にお金を入れて使う自動精米機があって、いつもそこで精米してたのにそれができない。


 がっくしだ。



 ついでなので米をといで、昼食用にタイマー炊飯セットをしておいた。



「んんっ???」



 今まで疑問に思わなかったけど、水や電気、ガスが使えるのはどういうことだろう。


 あ、ガスはプロパンガスで家の裏にプロパンのボンベがあるからおかしくはないのか。


 そしてスマホで通話はできないけど、ネットにはつながってる。



「う~ん」



 考えてもわからん。


 わからんものはどうしようもない。






 つい、習性で仕事が休みなのにPCの前に座ってしまった。


 つけっぱなしのモニターの中で新着書き込みが自分をアピールするようにツールを点滅させている。






 Kcho>明日休みといったが、それは嘘だ


 nemi>ヽ(;´Д`)ノ


 YasuK> >_<


 Kcho>クライアントから修正きたって言ったが、スケジュール見直してみたがどう考えても間に合わん


 Kcho>残業代はきちんとでるようにするから明日よろしく


 Kcho>今日からやるっていうなら止めはしない、というか大歓迎


 Kcho>あ、カメラのスイッチだけは忘れないように


 YasuK>久々のお休み、今日だけは休ませてください ^^;


 Kcho>それはいいけど、まじ明日頼むね


 nemi>デ、デートの約束が


 Kcho>ないでしょそんなの


 nemi>は、歯医者の予約が


 Kcho>正露丸つめとけ


 nemi>鬼ー







 昨日夜は早々に布団にもぐり込んだから昨夜の会話に気付かなかったが、このまま気付かなかったことにしてしまいたい。






 Kcho>うーたんいるでしょ


 Utan>ギクッ


 Utan>なぜわかるし


 Kcho>いつもならいる時間だし、なんとなく課長の勘


 nemi>うぉぉぉ、本日もよろしく


 YasuK>はぁ カメラon







 うちの会社はリモートワークになってるが、WEBカメラで出社?在席確認をおこなってる。


 ツールでカメラ上に人がいるかどうかを自動で認識し働いてるかどうかチェックしている。


 トイレに行ったり離籍時間も当然チェックされ、その時間は労働時間をしめす時計が止まることになっている。


 通常の勤務時間ならそれは関係ないのだが、残業の場合は実際に作業した時間ということでそのカメラで確認された時間で計算されてしまう。


嫌になってくる。




 チームはPM《プロジェクトマネージャー》兼PL《プロジェクトリーダー》の課長の指示に従い工程表に沿ってSE兼PGの自分と後輩2人、いや課長もか、この4人全員でプログラムを組んでいく。


 ほんとならこの倍の人数は欲しいところだ。


 ていうか、クライアントには倍の人数で作業していると報告してることを自分は知っている。






 nemi>うーたんとこ地震?カメラ揺れてるよ







 仕事開始して2時間位したときにチャットに書き込みがあった。


 カメラは使っているが、マイクはみんな使ってないのだ。


 好きな音楽を流しながら作業したほうがいいいよねって、そうなった。







 Utan>なんか外でドスンドスン音がして揺れてる気がする


 Kcho>自宅で作業中に道路工事とか工事は嫌になるよな


 Utan>工事じゃないと思うけど・・・


 YasuK>そーっすよ 異世界転生設定なんだから


 nemi>めっよ、ヤスくん。信じてあげなきゃ






 さっきからドスドス音がするし地面も揺れている気がする、じゃなくて揺れてるんだけど怖くて確認ができていない。


 なんていってもいられないか、行くしかないか、はぁ……




 車庫のほうだろうか。玄関ではなく裏口からサンダルを履いて庭へとでた。


 外に出たことにより耳に入ってくる音というか情報が増える。


 木を倒すようなバリバリという音、ガリガリというのか咀嚼音っぽいのも聞こえる気が……


 金属バットを持つ手に緊張とともに力が入る。


 10年以上前、中学時代に使ってたやつを物置から引っ張り出してきていたものだ。


 地揺れの振動がおさまったとこで意を決して車の陰に走りこむ。




「嘘だろ……」




 呆然と突っ立った自分の目に映るのは恐竜???




「やばい、目が合った!!」




 直立2足歩行の巨大爬虫類?


 首を下げ何かを咀嚼していた奴は体を起こし、こちらを認識する。




「まじかよ……」




 驚きのあまり少しの間思考がフリーズした。


 2メートルの高さの我が家の塀は奴の胸にも達しない。




 カラン




 金属バットが地に落ちる。


 いつの間にか手の力が抜けていた。




 音に反応したのか、モヒカンみたいな紫トサカの奴が迫ってくる。




 ドグシャ




 恐ろしいギザギザの牙をした奴は頭から見えない壁にぶつかった。




『グギャァーーン』




 吼え声か唸り声か知らんが、つんざく音が鼓膜を震わせる。




 ドス、ガス、ゲシ、




『グルァーーー』




 体から見えない壁に体当たりし、体に比して小さい前足で見えない壁を引っ掻く。


 自分はというとまたしても腰を抜かし、地に尻をつける。


 ズボンの股間の染みが少しずつ大きくなる。


 幸いというか染みはピンポン球くらいのサイズで止まり、地面まで濡らすという全開放までは至らなかった。


 それはどうでもいい。どうでもいいんだ。


 パニクった頭でも体は動いた。


 体の向きを換え四つんばいになり、這うように家の中に逃げ込む。


 土の上を這って膝が痛いとか気にもならなかった。








下着とズボンを替え、スプーンに山盛りに盛ったコーヒーの粉をガシガシとカップに入れまくりお湯を注ぎ口にする。




「ふぅ」




少し落ち着いたが、あれはなんだったんだ?




大型の恐竜、ティラノサウルスに似てた気もする。


恐竜は現代人が想像したものを絵にしているため、時代とともにイメージが変わってきている。


ティラノサウルスも昔はゴジラのように直立で尻尾は引きずるように歩くイメージにされていたものが、ジュラシックパークでもわかるように体は尻尾を含め水平に描かれるようになった。


そして最近は大型のものは別として小型のものなんかは鳥が恐竜の子孫ということで鱗ではなく羽毛に覆われていたのではという説が考えられるようになってきている。




とまぁそれは置いておいて


二本足で直立し長い尾にワニのような鱗、頭にはモヒカンみたいな紫色のトサカらしきものが見て取れた、と思う。


正直パニクっていたため記憶に自信はない。


一番印象に残っているのはギザギザ牙の生えたでかい口でこちらに向かって吼えたとこだろう。


その際ドデカトカゲが口からこぼれ落ちたのもよく覚えている。




ピロン、ピロン




「あー、うるせぇ」




PCからピロンピロンと音が聞こえるので呼称ワークルームへと戻る。


チャットツールに付属している呼び出し音だ。


どうせ離席時間が長いので早く仕事に戻れという催促だろうと思ったらその通りだった。


とりまキーを叩く。








 Utan>スマン問題発生してた。家の外にどでかい恐竜みたいなのがいた


 Kcho>それはいいから仕事がんばろうね。作業おしてるんだから


 nemi>田舎でヤモリでもでた?


 Utan>違うって、ちょっと待ってて








カーテンを少し開け、隙間からスマホで車庫のほうを向けて写真をとった。




「あれっ、おっかしいなー」




撮った写真を見ると真っ黒けだ。


不審に思いつつももう2枚3枚と繰り返すも真っ黒の画像が増えるだけだった。


らちがあかないと








『ギェェーーー』




動画モードにして家から出て車庫のほうに恐る恐る進んでたところで叫び声が聞こえた。


悲鳴のような耳につんざく音だ。


スマホ画面から顔をあげた目に映るのは頭部分がなくなり、首から勢いよく真っ赤な血が噴出する場面だった。


そう毎回毎回腰を抜かして入られない。


もうほうほうの体ということがぴったりマッチしそうなていで腰砕けになりそうながらも家に駆け込み布団にもぐりこんだ。








「やばいやばいやばい、どうなってんだ」




まだ握ったままだったスマホを確認するが、動画モードでも真っ黒画面のまま再生時間をあらわす数字だけカウントされている。


布団を被ったまま窓から外を覗くと巨大な火の玉が車庫のほうに飛んでいき、見えない壁に遮られ火の玉が大きく破裂し視界が紅一色に染まったと感じたところで意識が途絶えた。










「眠って、いや、気を失っていたのか」




かけ布団に包まり窓に寄りかかるようなかたちで長時間いたため、首や肩をまわしボキボキと鳴らしながらコリをほぐす。




いつの間にか日は落ち家内は真っ暗だったが、電気をつける気にはならなかった。






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