第4話
日が昇り外が明るくなってきたので、意を決して昨日のがなんだったのか確認に出た。
「!!?」
辺り一面血だらけだ!
地面に染み込んだ血は茶色くなっているがそこかしこに生々しい血溜まりがあり、昨日の恐竜は胴と首とが分かたれて転がっている。
じゃねーよ!
女の子が倒れてる!?
親戚の美香ちゃんくらいか。
小学校低学年くらいの女の子が車庫側の門の少し先でうつ伏せで倒れている。
「痛っ」
飛び出そうとして頭を見えない壁にぶつけてしまった。
何かないか?
あたりを見回し、竹箒に目が留まる。
手にした竹箒で女の子をつつく。
柄の竹の部分は見えない壁を越えることができるのだ。
つつかれた女の子は少し身じろぎをしたように見える。
生きてる!!
他に何かないかと考えたが手の届く場所でもないし、紐でも投げて引っ張るか?
いや、と考えをあらため散水ホースを伸ばしてきて水をかけてみた。
ぴくぴくっと動いたかと思うと、手のひらで水を受け口に持っていっている。
ついで仰向けに体をおこし、口をあける。
「のどが渇いてるのか?」
ホースをシャワーから通常に切り替え口に狙い直接水を向ける。
「ぎゃー、すまん」
大量の水が口や鼻に直接入り、がぼがぼ
水をシャワーに戻すとまた手に水を受けごくごく飲んでいる。
少しすると落ち着いたのか立ち上がりこちらに歩いてきた。
ガツン
あー、すまん。見えない壁があるんだわ。
女の子は手でぺたぺたと見えない壁を触り確認し、口を開く。
「#%$”¥$」
聞いたこともない言葉だ。
ていうか、キュルキュル聞こえる。
「えーと、自分は日本人、ジャパニーズ。キャンユースピークイングリッシュ?」
「%&#$&$」
「うーん、わからん」
女の子は手に持った棒を目の前に掲げる。
「うわっ、光った!?」
棒が光ったことに驚いた自分の耳に声が聞こえる。
「おーい、わらわの声が聞こえるかの?」
びっくりし、目を見開いて女の子を見る。
「あぁ、聞こえる。日本語しゃべれたんだね」
「日本語というのは知らんが、思念通の魔法のおかげじゃ」
「思念通の魔法?」
「うむ、相手と意思疎通できるようになる魔法じゃ。わらわは大魔法使いじゃからのこのようなことも容易いのよ」
幼女が腰に手をあて胸をそらせ、えっへんとかドヤ顔をしているのをみて自分の口にも笑みが浮かんだのがわかった。
美香ちゃんも魔女っこステッキを持って遊んでたよなと親戚の子のことを思い出した。
「こんな森の奥深くに結界を張っておるなんておぬしこそ何者じゃ?」
「ん?自分はただのサラリーマンだけど?」
「サラリーマンとな?」
「まぁ、雇われて働くものって感じかな」
幼女は会話している間も棒でコツコツと見えない壁をたたいたり、手でペタペタと触ったりしている。
「ふむ、わらわはお主に敵意はないので、この結界を解いてはくれんかの。できればそこな屋敷にて少し休ませてもらえばありがたい」
「ごめん、結界ってこの見えない壁のことだよね。これは自分でやったんじゃないからどうにもできないんだ。というか外にも出ることができず閉じ込められた状態なんだよね」
「ふむ、試してみたいことがあるのがよいじゃろうか」
幼女はもごもご口を動かしなにやら呟いている。
「結界無効化テレポート!」
叫んだと思ったら目の前に現れた。
あらわれあられも……
とっさに自分の目を手で覆う。
自分は紳士、幼女に対しても紳士であれ! イエスロリータ、ノータッチ! うまいヌードル、ニュータッチ
「ふっ、ふっ、ふっ、わらわ凄いじゃろ。普通はテレポートで結界を抜けることはできぬが、結界の波長とテレポートの波長をあわせ、すり抜けたのじゃ」
またもやドヤ顔でポンポンまんまるお腹を突き出している。
「お、おま、スッポンポンだぞ」
「ギャーーー! みるな、みるでない! 乙女の裸をなんと心得る」
しゃがみこみ丸まり肌を隠そうとしている。
手で目を覆ったまま背を向けると、後ろからふぎゃって声とガツンという音で振り返ってしまった。
幼女は額を押さえており、その少し先に服やらなんやらが転がっている。
「いつつ、み、みるなと言うておろうに、あっち向いておれ!」
いや、まぁ幼女の裸なんか見てもムラムラするわけでもなくどうとも思わんのだが、背を向ける。
「この、くそっ、取れぬ。結界のせいで取れぬのじゃ。わらわの服が……」
あー、はい、はい
「わかったわかった。なんか持ってきてやるから、ちょっと待っとけ」
家に駆け込み、
あー、なんどってのは物置部屋みたいなものかな。
それはさておき、奥のほうから取り出してきた箱には『おねえちゃん小1』の文字が書いてある。
母は物を捨てない性質でなんでもかんでも取っていた。
家が広く、置き場所にも困らないから問題ないんだが、とっくに結婚し嫁に行った姉の服なんかも当然取ってあった。
箱を開け、中を漁る。
「これと、うーん、これでいいか。あ、濡れてたからタオルもいるな」
急いで戻り、持ってきたものを渡す。
ぎゃーすかうるさいので地面に置いた後自分は後ろを向いて離れ、取りに来てもらったのだ。
「ふぉっ、なんじゃこれ。ふかふかで肌触りがよく水がよくふき取れる」
「あー、みてないからわからんが、たぶんタオルだな。長細い布のこと言ってるんだろ」
「ふむ、タオルか。この紺色のやつはなんじゃ?履けばいいのよな。そしてこれを着ろと。にしても肌触りのよいものよなぁ」
着替えの衣擦れの音が聞こえるが、おこちゃまのお着替えなんぞどうでもいい。
「もうそっち向いていいか?」
「うむ、もうよいぞ」
目に映るのは金髪のわしゃわしゃ鳥の巣ヘア。
血と泥で汚れていた顔も今は綺麗な透き通る肌を見せ、くりくりぱっちりおめめは日の光のせいか金色のように見えている。
お世辞抜きでかわいい!ぷりちーな女の子だ。
紺色のちっちゃな短いズボンと、白い服。
いや、はっきり言おう。
古きよき時代、ブルマに体操服という出で立ちだ。
うんうん、よきかなよきかな。
性的な目ではなく、愛めで慈しむ気持ちで幼女を見ることは悪いことだろうか。
否!
こちらをロリコンという枠組みの中にいる変態と我等紳士をいっしょにして糾弾しようとする思想こそ悪である!
声を大にして言おう!
我等は紳士である!
皆もいっしょに、「イエスロリータ、ノータッチ!!!」
「なんじゃ急に叫んで」
「あぁ、すまん。心の声が一部漏れただけだ。気にしないでくれ」
にしてもこいつ何者だろう。いや、まずは挨拶だな。
我は紳士、冷静であれ。
「挨拶が遅れたけど、はじめまして。自分は
「ふむ、太郎とな。我が名はメルモ・アーク・ラビッツ! メルモ様と呼ぶことを許そう」
「メルモちゃんか。可愛いお名前だね」
「メルモ様と呼べと言うておるじゃろうに」
こんなことで腹は立ちもしない、子供のいうことだ可愛いものじゃないか。
『くぅ』
可愛らしい音を耳がとらえた。
「あー、その、なんじゃ。ここはどこじゃ?」
視線を斜め上方に逸らし、唐突に会話をいれる。
幼女の白い頬は朱色に染まっている。
「立ち話もなんだし、うち来る? 座って話そうか。軽い食事くらいはご馳走するよ」
小学生の女の子にこういう話をしようものなら事案案件だわ。
すぐに防犯メールで『不審な男に声を架けられる事案が発生しました。不審な男に遭遇したら、近くの民家等に駆け込み、安全を確保した上で110番通報してください。』なんてものが一斉に送信されるわ。
ここって日本じゃないよね。
大丈夫だよね。
なんて自己擁護しながら我が家の応接間に幼女を案内した。
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