第10話
目覚めの一杯を飲んだ後メルモを起こしに行ったら布団は既にもぬけの空で玄関のほうから音が聞こえる。
「ぐぬぬ~、開かんのじゃ」
早足で玄関まで行くとドアと格闘している子がいた。
あ~、昨夜寝る前に家の戸締りきちんとして鍵もかけてたんで、鍵が開けられないんだろ。
現代人?でも初見だと開け方がよくわからん鍵や扉なんかもあるしな。
「外に出たいのじゃがこの扉が開かぬのじゃ、開けるのじゃ。お主が来るのが遅かったら魔法で破壊してしまうとこであったぞ」
あ~、はいはい、君は今杖がないから魔法使えないんでしょ、なんて悲しい顔をさせるようなことは口にださずに鍵をはずし、玄関扉を開いてやった。
しゃがみ込み目線を合わせて「お外は危ないから」と言おうとして口をつぐむ。
子供じゃないんだった。
「くっさ~、おぬし口がくさいぞ」
幼女の声に立ち上がって距離をとり、口の前に手を当てすーはーすーはー自分の口臭をチェックする。
コーヒーの香りがする。
タバコとコーヒーは飲んだ後、口から臭いがただよってくるからなぁ。
飲む前の匂いと味はそのままに、飲んだ後匂いがしないコーヒーって開発されないかな。
気を取り直して聞いてみる。
「メルモちゃんはお外で何をしたいのかな~」
「なんじゃその馬鹿にしたような
はっ、100歳超えの自分よりはるかに年上だった。
「それはいいとして、とりあえず朝食にしよう」
「うむ、それもそうじゃな」
冷凍クロワッサンをトースターで焼いてふたりで食べる。
他には目玉焼きにカリカリベーコンだ。
二人分の食事ということで食材がどんどん減っている。
スーパーに買い物に行きたいとこだがどうしよう。
頭の中で声が聞こえる。
『仕事が忙しくて買い物に行く暇がないんだったら、宅配してもらえばいいよ。これでもっといっぱい仕事の時間がとれるね』
課長の顔が浮かんだが頭を振って追い出した。
以前だったら通勤していた時間だがテレワークになって通勤時間がゼロになったのはすごく嬉しい。
その余裕のある時間である今はメルモといっしょに庭に出ていた。
彼女は身ひとつで我が家にワープして入り込んでしまったので、履物も持ってない。
そんなもんで我が家のおばちゃんサンダルを履かせ庭に出る。
その履かせたおばちゃんサンダルはつい先ほどまで自分の胸あたりをぷらぷらしてたが、すぐに落っこちてしまった。
どんな状況かって?
首から後頭部あたりに柔らかな感触と温もりがあるとだけ言っておこう。
彼女はせいいっぱい手を伸ばし、塀の上の透明な壁ー結界というんだっけーをぺたぺたと触り、うんうん唸っている。
そして俺の頭をぽふぽふ叩き、移動するよう促す。
あー、はいはい、お姫様のおおせのままに。
柔らかなあんよに手を当て落ちないよう支えたまま肩車で敷地内をぐるっと一周する。
そして初日に確認したように透明な壁を越えられる物、越えられない物を実際に試し披露して見せた。
時間が気になり、この庭も探索してみるのじゃというメルモを残したまま家へと入る。
二日続けて遅刻(実際は違うが)なんて無様な真似は晒したくないので、10分前にはwebカメラをオンにして、メールのチェックをおこない仕事の準備をする。
社長から社員に向けての一斉送信メール。
朝礼なんてものはなくなったが、皆に何か言わないと気がすまないらしい。
益体もない内容を読み飛ばし次にいく。
スパム、スパム、スパム……
時間の無駄だが、自動でのスパム処理は軽目の設定にしてある。
大事なメールがゴミ箱へなんてマネを防ぐため意味もない作業に時間を費やす。
もう嫌になってくる。
メールもナビダイヤルみたいに金をとるようにすればスパムメールも減るんじゃないかと、つい妄想してしまう。
メンバーのみんなとは朝の挨拶だけをして、黙々とキーをたたき仕事をする。
仕事をしているときが一番心が安らぐ気がする。
いや、独りで自分の担当の場所の仕事をしているときだけだな。
Kcho>うーたん、ちょっとお願いが
Utan>なんですか?
Kcho>明日、営業の佐藤さんとクライアントのとこに説明にいってくんないかな
Kcho>うーたんとこからだと朝出て昼過ぎに打ち合わせでいけるよね
Utan>ちょっ、まじ無理なんですけど
Utan>家から出られないし、今いる場所もわかんないのに
YasuK>まだその設定引きずってんすか
Utan>頭がいかれてて、精神病院にお世話になる寸前と思われても無理なもんは無理、まじ勘弁してください
Kcho>しょうがないな、資料は作れる?
Kcho>その資料もってネミさん行ってくれる?
Utan>資料なら大丈夫、明日までにデータ送るわ
nemi>うい~、貸し1ね
nemi>ここが会社だったら満腹堂の大福で手をうつんだけど、なにがいいかな
Utan>通販でネミさんとこに送ってもらおうか
nemi>うーたん、あたしの家知ってんの?
nemi>もしかして後をつけてきたとか
nemi>いや~、あたしも罪作りな女だわ
Utan>はいはい、住所教えてくれれば送るよ
nemi>いやらし~、下心みえみえだわ
Utan>・・・
Utan>さぁ仕事仕事、資料作らなきゃ
お昼ごはんは素麺だ。
少し季節的に早い気もするが、たくさんあるので少し消費しておこうという考えだ。
冷蔵庫からめんつゆ(ストレート)を取り出し器に注ぐ。
2倍や3倍濃縮よりストレートのつゆが好みだ。
とまぁ、それはさておき庭に出て山椒の葉を摘んできた。
以前スーパーでちょこっとしか入ってない山椒の葉がそれなりの値段で売られてたのにはびびった。
自分の中では山椒は庭で摘んでくるものでしかなかったのだから。
水で絞めた素麺を皿に盛り、その上に山椒の葉を乗っけておく。
自分は箸で素麺を食べるが、箸に馴染みのないメルモちゃんにはお子様フォークを渡し、パスタのようにくるくるして食べさせる。
山椒は食べなくてもいいというのを伝え忘れてたため、食べてしまい顔をしかめていたが、まぁいいだろう。
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