異世界転移しても日本のブラック企業に縛られています~ロリコンと呼ばないでこれでも紳士です~

@ganzalost

第1話

「久々の休みだ、今日はゆっくりするか。いや、でも晴れてるから洗濯だけはして干しておくか」



 両親が亡くなって数年前からこの相続した一軒家に一人暮らしだというのに、だれに言うでもなく言葉が出る。


 俗にいう独り言ってやつだ。


 長引くコロナによって会社はテレワークとなり、しばらく空き家となっていたこの田舎の実家に引っ越してきた。



 洗濯機を回し、庭の物干し台に洗濯物を干していく。


 いい天気だ、空を見上げると最近ではあまり見かけないような大きな鳥が空を舞っている。



 ポストを見るが特に郵便物はきていない。


 新聞も両親が健在の頃はとっていたが、今はとっていない。


 ダイレクトメールなんかも最近は郵便物として送られてくることは減ったし、公共料金のお知らせなどの明細もコスト削減とかで郵送されなくなってポストにわけわからんものがぎっしりってこともなくなった。



「んん???」



 目をこすってみるが映る景色は変わらない。


 ポスト横の門扉から見える風景がなんか変だ。


 ていうか、門扉の外は道路だろ。そのはずがなぜか鬱蒼とした木々が見える。


 うちは田舎だが、山の中の一軒家ってほどではない。


 お隣さんの家まで徒歩数分とはいえ一応近所に家があるようなとこだ。


 もちろん家の前の道は舗装されている道路だ。というかそのはずだった。


 舗装道路どころか、道さえも見えない。




「疲れてるのか、もしかしてまだ眠ってて夢の中か」


 なんて呟きながら門扉を開き外へ出る。いや、出ようとした。



 ガツン



 視界が一瞬真っ白に光ったような、真っ暗になったような。



「痛てて、なんだよもう」



 グキッ



 右手でおでこを押さえ、左手を前に出そうとしたら何かにぶつかり手首がグキッってなった。



「な、なんだ?壁?」



 現実的ではない、夢ならばまぁそれでもいい。


 なんて考えながら痛みをこらえつつも前方を手でさぐってみると見えない壁があるようだ。


 門扉は内側にも外側にも開く構造になっていて、今は内側に開けている、


 それを外側に開けようとすると、ガンという音がして外にはというか開かない。


 いや、少しは開くんだ、我が家の敷地内分だけは開き、もっと外側。今は見えないが側溝があった場所より先へは何かに遮られるように開くことができない。


 表門は諦め、車庫のほうへと歩いていく。


 車庫といってるが、外壁のない屋根だけのカーポートとも呼ばれるやつだ。


 そしてパイプタイプのシャッターの間から見える先も木々がいっぱいで遠くが見通せないような感じだ。


 いやいや、こんな景色じゃなかなったから。


 そちらの門は上下に動かすタイプなので押し上げ開くことはできたが、見えない壁に遮られ外に出ることはできない。



 我が家の敷地は高さ2メートルのブロック塀に囲まれている。自分の視線より上ではあるが手を伸ばせば塀の上に届くことができる。


 手を伸ばし塀の上を指を這わせ……



「やっぱり無理か」



 指は何かにぶつかり先へ進むことはできない。


 敷地内を時々手を伸ばし確認しながら一周するも指が先へ進む箇所は見つからなかった。



「もういっか、寝るかな。起きたら元通りだろ」



 人と直接会うことが少なくなってきてから頻繁に独り言が口をつくようになった。



「あー、眠れん。さっき起きたばっかだし、まだ昼前だしな」



 9時過ぎに起き出し、朝食に食パンを食べた後洗濯をし、今に至る。


 布団から出て台所に行きコンロに火をつける。


 とりあえずコーヒーでまったりしよう。


 インスタントの粉をガンガンぶち込み、ほかの人に言わせれば『入れすぎ、飲めたもんじゃない』コーヒーを口にし、スマホを弄ぶ。



「……ん?」



 電波が来てない?wifiも繋がらない。ルーターの不調か?


 モデムとルーターを再起動してみたがスマホは電波を拾わない。


 PCの電源ボタンを押しスリープを解除しつつ居間に行く。



「あー、テレビ捨てたんだった」



 親がなくなって誰も住んでいなかったこの家に時々掃除や風を通しに戻ってきていた。


 そのときにN○Kの人が来て、料金払えっていってきた。


 契約を解除していると伝えれば、契約しろ、ここに住んでないって言っても聞いてもらえず


 テレビがあるなら金払えってしつこいから、ちょっと待ってろって言ってテレビを持ってきて、それを地面に叩きつけ、もうテレビはない帰れって言って追い払って以来、この家に引っ越して戻ってきてからもテレビは買わないままだ。


 独り暮らしだが田舎の一軒家のため部屋数は多く、仕事に使っている部屋に行き先ほどのPCの前の椅子に腰掛ける。


 デスクトップPCのファンの音がいつも通り耳に障るが、マウスを手にし3つのモニターのひとつを眺め回線状況を確認する。


「うーん、問題ないな。PCはネット繋がってる」


 モデムとルーターのランプ表示を確認すると有線で繋げてる方はランプがついてるが、無線LANの方のランプが消えている。


「あー、無理か」


 再度再起動を試みるもランプはつかない。


 モニターの一枚を眺めつつPCのキーを叩く。







 Utan>だれかおるかー


 Kcho>おるぞー


 nemi>どったの?


 YasuK>ノ








 常時表示させてあるチャット画面にはものの数秒もしないうちに返事が書き込まれる。


 ちなみにUtanは自分。田舎へUターンしたことからチャット上での名前をUtanとしうーたんと呼ばれることになる。


 Kchoは課長、nemiはチーム唯一の女性、ナミさんだけどねみぃねみぃばかり言うのでnemiになった。


 YasuKは加藤浜安って名前だが、YasuKは休みくれの略だと常々言っている。



 とまぁ、この4人で今プロジェクトのチームを組んでいる。


 今日は休みだというのに、書き込みに対するレスポンスの早さ、なんたることだ。


 みんなPCの前にいるんだろうな。









 Utan>明日まで休みだよね


 nemi>だね


 YasuK>うんうん、久々にゆっくりできる


 Kcho>といいつつ皆PCの前にいるし


 nemi>どったの?


 Utan>いや、なんか頭おかしくなったかも


 Kcho>は?ぼけたか


 Utan>なんか夢と現実がわからんくなってる


 Kcho>w


 Kcho>寝ろ


 YasuK>うんうん ゆっくり休むべさー


 Kcho>そうそう、休め


 Kcho>なんとかスケジュールに追いつき、こんなゆっくりできるなんて滅多にないことだぞ


 Kcho>それも二日続けての連休なんて


 YasuK>それ なんてブラック


 Utan>まぁいいや、とりあえず布団入る


 Kcho>みんなも羽を伸ばせよ~


 Kcho>ちなみに自主的に仕事をすることは止めはしない


 nemi>いや止めろよ




 仕事で使ってるチャットツールはスタンプなんて華やかなものはない。


 休み中は電源を落としておこうと思ったPCもそのままにリビングのソファーに横になる。


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