第7話
「えっと、それで……メルモさんのこれからのご予定は?」
「なんじゃ急に呼び方を変えおってからに」
咄嗟に話題を変えてしまった。
「うむ、まずはここから出ねばの。この屋敷にマジックスタッフの類は置いておらぬか?」
「は??? えと、とりあえずここが中世ヨーロッパくらいの発展度プラス魔法ありのファンタジーな世界と仮定して話すよ」
「うむ、よくわからん言葉もあるが頼む」
立ち上がり、壁際のサイドテーブルの上に置いてあったオルゴールを手に取り戻る。
ネジを巻き、手を離すと有名なクラシック曲が流れ出す。
「おぉぉぉ、なんじゃこれは。心が揺さぶられるような感じがする」
恐る恐る手に取ったオルゴールの箱をひっくり返したり傾けたりしながら少しの間観察した後返してくれたので、箱を開けて中を見せた。
内部ではでっぱりが金属を弾いて音を奏でている。
「これはオルゴールといって、自動で音楽を奏でる道具かな。そしてこっちは」
「おぉぉ、おぬしも魔法が使えるのじゃな」
まだ使えてよかった。
20年くらいはテーブルの上に放置されていた卓上ライターをカチカチと数度擦ると赤い小さな炎が目の前にともる。
最近は喫煙は嫌われているが、数十年前は応接室など来客のある場所には卓上のライターと灰皿が置いてあるのが普通だった。
捨てるのももったいないからと、インテリア代わりにずっとテーブルの上に飾られていたのだ。
「これはライターといって、中に入っている燃える液体に火打石のようなもので火をつける道具なのさ。そしてあそこの壁にかかっているのが時計、時を自動で刻む機械。他にはっと……」
(実際は液体ではなく気体に火をつけるんだけどね)
室内を見回し、目に付いたリモコンを手に取りボタンを押す。
「な、な、なんじゃ???急にひんやりとした風が吹いてきおった」
強ボタンを押されたエアコンはゴォーッという音とともに冷たい風をこちらに吹きつけてくる。
「あそこの冷たい風を出してるのはエアコン。部屋の温度を調節してくれる機械。想像だけど、君たちの世界は魔法が発達したけど科学技術はあまり発達しなかったのじゃないかな」
とりあえず理系の大学は卒業しているので、簡単に科学やヨーロッパの産業革命の話をしてあげた。
「驚きの話じゃが話を戻して、この屋敷にもしや魔法の杖はないのかの?」
「ない!」
きっぱりいいきった。
ないものはない、あるわけがない。
きつく言い過ぎたか……
目の前の幼女の目から涙があふれ出しそうになっている。
「つ、杖がないと魔法が使えんのじゃ。う、う、うわ~ん」
やばっ
パッと立ち上がり、サイドボードへと走る。
「ほ~らほら、くまちゃんですよ~、かわいいですね~」
「ぐすっ、ぐすっ。うむ、かわゆいのじゃ」
サイドボードの上に飾られていた服を着たクマをメルモに抱かせるとギュッと抱きしめ、くしゃくしゃにして泣いていた顔には笑みが戻る。
そして自分はあることを思い出し納戸へと走った。
「あったー!そして新しい電池を入れてと」
『おねえちゃん おもちゃ箱』と書かれていた箱から20年以上前にテレビでやっていた魔女っこアニメの女の子が持っていたステッキを取り出し、新しい電池を入れる。
そうそう、長い間使わない家電やおもちゃは乾電池を抜いて保管しておこう。液漏れとかいやだからね。
魔女っこステッキを手に応接間に戻り、メルモちゃんに手渡し使い方を説明する。
「うぉぉぉー、キラキラじゃ!すごいのじゃ!」
ボタンを押すとステッキの先のジュエル(もちろんプラスティック)部分がキラキラ点滅しながら光りだした。
その様を見て喜びステッキを振り回している。
やっぱおこちゃまだなぁ、ほっこりくる。
振り回すのをやめ、まじめな顔をしたかと思うとなにやら唱えだす。
「結界無効化テレポート!」
……
掲げたステッキはキラキラ光を放っている。
「魔法が発動せぬのじゃ」
「そりゃまぁ、自分たちの世界では魔法なんてものはないし、ないから当然魔法を使うためのステッキなんてものはない」
「では、これは?」
「あー、子供の玩具かな。ただ光ってるだけで意味はないし」
膝を突いてうなだれた。
四つん這いになってがっくしきてる。
あれだ、orz ってやつだ。
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