第66話 新しい住居へ
意識を失ったおサエは、屋敷の客間に移されて横になった。意識は戻らず、吾作はここ二日間のおサエをかなり無理していたんじゃないかと考えた。
それとすべてが許されて安心したんじゃないかとも考えた。
その後、代官と与平の計らいで立派な医師を呼んでもらった。
脈をとって特に問題はなさそうだから、それでしばらく休んでいれば大丈夫だろうという診断で、みんな安心した。
実際、休んでいたおサエはみるみる元気を取り戻し、五日後にはいつもと変わらない状態に戻っていった。
その間に、吾作にはその廃寺じゃないといけないのか? もっと近くのどこかに住むのはダメなのか? という話も出た。しかし吾作は、
「なぜかは知らんけど、あれだけ離れとるもんでわしの中の化け物が引っ込んでくれとるんだと思う。まっと近くに住むと、また化け物が顔を出してみんなに迷惑をかけると思う」
と、言ってみんなを説得した。代官はその話を聞いて吾作も考えているんだなと感心し、廃寺への移住計画を進める事にした。
そこでその廃寺に本当に住んでいいのかを、土地のお寺の住職に聞く事にした。
そこには代官と与平が出向き、話を聞いた。
すると何でもこの廃寺は、少なくとも数十年は廃寺になっているという事が分かり、土地の者もそこを利用はしないし、問題はないだろうと、住職は話してくれた。
そして代官は、更にその地域の代官の所へ出向き、吾作の話をして、住まわしてもらう事の了承を得てきてくれた。
こうして吾作とおサエは晴れてその廃寺に住む事になったが、ふもとの村の人達にまずはここに住みたいという了承を得ないといけない。と、いう事で代官と与平の提案で、夜になってから四人でふもとの村にあいさつ回りをした。
吾作の姿を見た村人達は、当然気持ち悪がったが、代官と与平がいてくれたおかげで、何とか反対もなく住んでよい事になった。
それに吾作が血を食糧としている事は隠しておいたので、必要以上に村人達を怖がらせなくてすんだ。
そして廃寺の境内の草の片付けがてら畑を耕したり、階段の整備や建物の補強や新しく住居を立て直しも代官と与平が大工さんを頼んでくれてやってくれた。
こうしてようやく二人は安心してこの場所で生活が出来るようになり、吾作とおサエは夫婦水入らずで仲良く暮らし始めた。
そして幸せな歳月は過ぎた。
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